stanleyk2001

選挙のstanleyk2001のレビュー・感想・評価

選挙(2006年製作の映画)
4.3
『選挙』
2007

「こんばんは。小泉自民党の山内和彦でございます。皆様と共にこの川崎の地で改革に取り組んで参ります。小泉改革、今も改革は待ったなしです。しかしまだまだ改革には反対する勢力抵抗する勢力がいます。現在私たちが取り組まなくてはならない改革、まずは行財政改革です。国から地方へそして官から民へお金の流れを変えることで、私たち自民党改革派は小さな政府を実現いたします。まだまだ行政には無駄がたくさんあります。私山内和彦は皆さんと共にこの川崎で改革に取り組んで参ります」

幼稚園の運動会。市議会議員の浅野文直が園児の前で挨拶。園児がショートパンツに手を突っ込んでいる。

山内「浅野先生はよく幼稚園を回ってるんですか?」
浅野「あまり回んないね。キリないなからね」

同級生が訪ねてくる
山内「自民党はね。先輩後輩のヒエラルキー、結局体育会なんですよ。僕は体育会じゃないから何にもそういうのがわからない。

宮前区は定員10。自民党の議席は現在3人。宮前区はリベラル色が強くて民主党が強い。この補欠選挙で当選するかどうかで自民党が議会第一党になるか第二党に転落するかが来まる。だから自民党をあげて取り組んでくれる。

しかし当選した後の残り1年半の任期が終わるときは自民党の3人の先輩はライバルになる。住まいを東京から宮前区に移すときもその三人の縄張りに重ならない場所を指定された。

日本ぐらいかな。こんなに組織的選挙が行われるのは。ムラ社会なんだよな」

事務所開き。神主の祝詞。奥さんが襷をかけてあげる「儀式」。記者が取材。山内は言葉が詰まりあせり気味。選挙カーを囲むおじさん、おじさん、おじさん。

山際大志郎「山内さん、握手は最後に相手と目を合わせる。これが大事だから」

ウグイス嬢はプロ。子供達「元気でねーがんばってねー」

選挙事務所のスタッフ。
「政治の世界では『妻』とは言わない。『家内』ですね」
「『おっかない家内です』というと笑いが取れるのよ」

政治の世界では家父長制が生きている。

雨の駅前。ずらりと並んだスタッフと山内や山際大志郎が一人一人あいさつする。「おはようございます。自民党の山内和彦です。いってらっしゃいませ」

選挙参謀「おいっ、まだ、話は終わってないんだよ!なんだ会場入り7:30って」よくわからない細かいことで激怒している。

老人会の運動会で挨拶。国会議員、県会議員、山内がラジオ体操でぴょんぴょん跳ねる。

選挙事務所。「午前中だけで700件位電話かけるかな」
「わたしは浅野文直の後援会からきた。日替わりでここに来てるのね。おじいちゃんの代から自民党」ビラをおり束にするなどの作業をする。
「話しながらやってるから数が合わないわ(笑)」

「あそこら辺は新興住宅だから自民党は弱いんだ」
「地区のリーダー紹介するから」
「お互い後援会を利用したり利用されたりでやっていけばいいんだよ」

「普段は石田先生を支援してるみなさんもこの補欠選挙だけは山内くんの応援をお願いします」
地元の男性「それは山内さんの絆創膏次第だな」
山内「絆創膏?膏薬(公約)ですか」
男性「わかってるじゃないかよ(笑」
地域でハバを効かすおじさんの様だ。

山内の妻さおりが車の中で山内に怒りをぶつける。
「わたしに仕事を辞めた方が良いって。彼等の言い分はね、今回応援してくれた人達にお返しする意味でもだって。次回の選挙で万が一落ちた場合に誰が責任取るんですかと言う話になると思うんですよ。こちらは責任取れないんですよって言ったら『いや絶対受かるつもりで選挙しろ』って。それは金持ちだからそんなこと言えるんだよ。私達が120%がんばっても落ちたとするじゃん。そしたら私達一文無しだよ。そんなのわたしの人権だって考えてない話じゃないですか?宮前区はさDINKSとか子供がいて共働きの人たちを代表していこうと言う時にさ、仕事やめろとかさ市議ぐらいで辞められるかっての!総理大臣になったら辞めさせていただきますって言おうかと思ったよ!」
山内「熱いなー。何か言われてもな『ああそうですか』ってやり過ごせば良いんだよ」
さおり「、、、、わかった」

自民党は政治を家業にしてほしい。妻に議員に従う『家内』でいて欲しいという。

二人は宮前区に借りた1DKのマンションに帰る。家具無し。床に布団を敷いて寝る。大変な暮らしだ。

小泉純一郎が来る。駅前は沢山の人だかり。ワイシャツを腕まくりした小泉が現れると聴衆から拍手が起きる。小泉は短い挨拶をして去る。

山内「自民党の組織の力ってすごいですね」
選挙参謀「公認ってのは党をあげてこんなことをやってくれるわけ。そうやって当選してからさ造反なんてとんでもないことなんだよ」

選挙運動は終わり投票日の夜。選挙事務所でスタッフが投票結果を待つ。最初は山内がリードしていたが接戦という情報が入ると事務所は重い空気になる。

票が確定する。山内は20544票、民主党の太田公子候補が19534票。1000票差で山内は当選。

当選したけど山内は事務所になかなか姿を現さない。自宅にいたのだ。衆院議員、県会議員、県連会長などお歴々を待たせるとは前代未聞だと山際大志郎が冗談めかして皆んなに謝罪している。

山内とさおりさんが事務所に到着して挨拶をして画面は暗転して終わる。

映画は2005年の川崎市長選・参議院補欠選挙・川崎市議会議員補欠選挙を描いている。

応援弁士たちのその後も面白い。
・石原伸晃は数々の不適切発言が有権者から嫌われたのか2021年の選挙で落選。
・山際大志郎は10年後に「野党の言うことは我々は聞かない」発言や統一協会との関係、政治資金規正法違反を追及されることになる。
・荻原健司は自宅の電気代を事務所に付け替えていたことが露見。そのせいか一期限りで議員を引退。
・橋本聖子は自民党参議院議員会長、オリンピック・パラリンピック担当大臣に就任。キス強要セクハラ問題、裏金パーティなどの問題で追及された。

この映画は「観察映画」と名付けられている。ナレーションも字幕も無し。政治的立場もニュートラル。監督は選挙スタッフの信頼を得たのか、選挙事務所の中での生々しい会話までとらえている。

結果的に自民党の家父長制の頑強さが浮き彫りになった。有権者への浸透の仕方の地道さも。

ここに出てくる自民党支持者たちは「昔から親の代からの付き合いだから」支持している。自民党が戦争ができる国を目指し国民から税金を巻き上げて大企業に中抜きさせる事に力を注ぎ労働者をいつでもクビにできる非正規にして消費税を上げて可処分所得を減らして消費を冷え込ませている事など考えてはいないのだろう。

「偉い人たちに任せておけば私たちは何も考えなくても良い」というこの人達。実は民主主義的ではなくて封建主義的な名もなき人々が今の日本の惨状を作ったんだなとしみじみため息が出る。

最初の街頭演説で山内が「民営化をすすめて小さい政府を作る」という政策は実現していまや公共セクターはボロボロ。インフラは老朽化して郵便は前より配達日数が長くなっている。

20年前の映画だけど今の日本の惨状を作ったのはこの映画の時代のあとの「悪夢の民主党政権」などではなかったことがよくわかる。
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