てつこてつ

祭りの準備のてつこてつのレビュー・感想・評価

祭りの準備(1975年製作の映画)
3.6
U-NEXT。ATG作品は、やはり肌に合う。昭和のノスタルジーと生々しいほどリアリティ溢れる人間臭さを描き出す作風は、娯楽作品とは一線を画すが、どこか心に響く。

この作品も昭和30年代の高知県中村市(今の四万十市)を舞台に、脚本家になる夢を抱きながらも地元の地方銀行に勤める青年の家族、幼馴染、憧れの女性との関係、この時代、そして地方ならではの村社会特有の赤裸々な人間関係を描き出す。

家族から離れ、平気でご近所の愛人の元で暮らす父親像、その愛人に先立たれ、仕事もなく悪びれるところもなく家族の元に戻ってくる姿、そんな夫をどうしても受け入れることが出来ずに、やはり、ご近所の別の愛人に夫の世話を頼む母親の姿に衝撃。本来はタブーである不倫たるものが、当たり前のように受け入れられている村落の生活風潮が凄いというか、大らかというか・・。

「この泥棒猫が~!!」って罵りながら母親と愛人が髪を引っ掴み引っ掻き合いで転げ回るという、絵に描いたようなキャットファイトが描かれる日本映画も初めて見たかも。堂々と「穴兄弟」という関係性が描かれ、セリフとして出る作品も初めて。

大阪でヤクザにヒロポン漬けにされ売春させられた挙句に頭がおかしくなってしまった青年の幼馴染の女性が地元に返され、毎晩のように海岸に打ち上げられた船で男を相手にする様、その相手が青年の祖父であった事実、挙句に妊娠して赤子を産み落としたら嘘のように正気に戻る描写は、当時の風紀が乱れた時代風潮の中にも、どこか滑稽ささえ感じさせる。

1975年製作の映画なので、出演している俳優さんたちがとにかく若い。主人公の青年を演じた江藤潤、彼が憧れを抱く竹下景子は本当に初々しい。女癖の悪い夫に愛想を尽かし、その分、成人した息子を溺愛する母親を演じた馬淵晴子が上手い。息子を平気で愛人と暮らす家に招き一緒に夕食を取る、どこか憎めない「家宅の人」そのままの父親像を演じたハナ肇も、やはり本職がコメディアン故か、この役には合っている。

にしても、主人公の悪友役の原田芳雄の存在感の凄さ、野性味溢れる魅力と言ったら半端ない。真っ黒に日焼けした盗み稼業に明け暮れる女好きだが、友情には厚いというキャラクターを見事に体現している。ラストシーンで、この作品の美味しいところを全部彼が持って行ったと言っても過言ではない。

要所要所に高知県出身の女優さんや、エキストラさんを配しているので、よりリアリティが増す。

激しい波が打ち付ける海岸の描写など、地方ならではのロケ撮影も美しい。

登場キャラクターたちが喋る土佐弁や訛りがキツ過ぎて、多少のセリフの聞き取り辛さはあるね。
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