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地獄の警備員のROYのレビュー・感想・評価

地獄の警備員(1992年製作の映画)
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知りたいか、それを知るには勇気がいるぞ。

黒沢清×松重豊

The Guard from Underground

■STORY
バブル景気で急成長を遂げる総合商社に二人の新人がやってきた。ひとりは絵画取引を担当する秋子(久野真紀子/現 クノ真季子)。 そしてもうひとりは巨体の警備員・富士丸(松重豊)。元力士の富士丸は兄弟子とその愛人を殺害。しかし精神鑑定の結果無罪宣告されていた要注意人物だった。 秋子が慣れない仕事に追われる日々の中,警備室では目を覆うばかりの惨劇が始まっていた。恐怖の一夜を支配する警備員の影が迫る!

■NOTE I
1980年代に生まれた伝説的映画制作会社“ディレクターズ・カンパニー”(通称ディレカン)。その最後期の作品が黒沢清監督によるバイオレンス・ホラー『地獄の警備員』だ。 日本映画界を代表する黒沢清監督をはじめ、現在高い評価を受けている監督達(佐々木浩久、青山真治、井口奈己、篠崎誠)がスタッフに名を連ねているのも注目。 キャストも今や大活躍の松重豊が凶暴で謎めいた警備員を演じるほか,2018年に急逝した名優大杉漣、長谷川初範、内藤剛などが若々しくも、個性的な存在感を放っている。

■NOTE II
本作はディレカンの未支払いからネガー式が東京現像所に抵当として長年塩漬け状態になっていた。そのネガ返却の交渉後、昨年9月末に無事に返却。以降はワンカットづつのデジタルスキャン作業と本作の撮影を担当した根岸憲一さんの協力を経て、11月18日にDCPが完成。その間に劇場とのタイトな交渉を行い上映が決まった経過での最新&最速公開となる。 凶暴で謎めいた警備員を演じたのは、映画・TVドラマ・CMなど今や各方面で大活躍する松重豊。若かりし彼が演じる無表情なサイコパスモンスターは闇の中で圧倒的な存在感を放っている。ヒロインには本作が本格的なデビューとなった久野真紀子(現・クノ真季子)。初々しくも1本当たりの演技が美しい。その他、2018年2月に逝去した大杉漣、長谷川初範、内藤剛志など個性的なキャストが脇を固める。(「デジタルリマスター版」『アップリンク吉祥寺』)

■NOTE III
伊坂幸太郎は『ラッシュライフ』(2009年)が映画化された際、誌面で黒沢清と対談。そのことを「ご褒美」と称していた。対談の中でも(この映画では堺雅人が演じた)“黒澤”のモデルが黒沢清本人であることを、伊坂の口から直接伝えている。一方で、オムニバス形式で製作された本作について、黒沢清は「4人の監督がそれぞれ皆勝手な方向を向いているような強い個性がある」と評していた。『ラッシュライフ』は、黒沢が教鞭を執る東京藝術大学大学院の教え子たちが監督した作品だったからだ。監督の中には、後に『宮本から君へ』(2019年)を監督する真利子哲也や、『スパイの妻』(2020年)の脚本を手がける野原位の名前などがあり、彼らに対しては「ずば抜けた才能もあるけど癖もある」とも評していた。『地獄の警備員』が紡ぐ、黒沢清監督と伊坂幸太郎の奇妙な関係は、時代性とともに現在へと繋がっているのである。

松崎健夫「伊坂幸太郎と『地獄の警備員』との奇妙な関係とは? 松重豊演じる“恐怖の警備員”がデジタルリマスターで29年ぶりに蘇る!」『Banger!!!』2021-02-12、https://www.banger.jp/movie/52187/

■NOTE IV
「当時の日本映画には存在しなかったホラー活劇をやりたくて、ディレカン末期の混乱に乗じて力任せに成立させたのがこれ。ただ、手本としたアメリカ映画の流れが大きく変わりつつあったことと松重 豊に出会ったことによって、作品は奇妙に錯綜したタッチへと変貌して行った。この時あこがれて果たせなかった何かを、私は多分今も目指しているように思う」黒沢清

■NOTE V
もともと黒沢監督は「前半はサメが怖い、後半はどうやってサメをやっつけるかと話が転換していく」『ジョーズ』(1975年・米/スティーブン・スピルバーグ監督)のような、アメリカでよく作られていた“ホラー活劇”を日本を作ろうとしていたところ、脚本を書きはじめた時期に『羊たちの沈黙』(1991年・米/ジョナサン・デミ監督)を観て「アメリカ映画はまったく変わってしまったと」大きなショックを受け、当初は「人間性のない怪物のような存在」として描こうとしていた警備員・富士丸が「喋らないかと思ったらものすごく知的な事をちゃんと話して、クノさん演じるヒロインとも、ラブストーリーとまでは行かないですけど、奇妙な関係に陥る」ように変化したと振り返り「ある意味で(『羊たちの沈黙』を)観て混乱しているなと思いましたけどね(笑)」と、その影響を語りました。

「黒沢清監督29年前の『劇的な出会い』を語る 『地獄の警備員 デジタルリマスター版』初日舞台あいさつ」『fjmovie』2021-02-13、http://www.fjmovie.com/main/news/2021/0213_guardfromug.html
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