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果てなき路のSのレビュー・感想・評価

果てなき路(2010年製作の映画)
4.0
アメリカン・ニューシネマの伝説的作品『断絶』(1971)のモンテ・ヘルマン監督の21年ぶりに手がけた長編監督作にして、監督の遺作。

本作は、『断絶』のローリー・バードに捧げられ、アメリカの若手映画監督を主人公に、映画製作の過程とそこで起こる事件を描く、複雑怪奇なノワール。

殺風景な一室で、男が Road to Nowhere(果てなき路) と書かれた DVDをPCで再生する。
実在の謎めいた事件をもとにした映画の製作を始めた若きアメリカ人映画監督ミッチェルと、オーディションで抜擢されたひとりの女優ローレル・グラハムがローマで恋に落ちる。インタビューを受けた映画監督が、プロに徹し主演女優と恋仲にならないと宣言したにも関わらず、カメラを通し女優が才能を開花させていく様に魅了されていく。
ヴェルマ=ローレル・グラハムを演じるシャニン・ソサモンが、思いの外、素晴らしい。

全編に渡って『果てなき路』というタイトルの映画制作(準備から撮影)の光景が描かれてゆき、作中の現実と虚構(映画内映画)が交錯する所謂「メタ映画」である。

『断絶』と同様に物語は説明を廃したドキュメンタリータッチとも言えるが、(実在のアメリカの有名俳優を作中で取り上げ、リアリティを織り混ぜる。例えばディカプリオ、破格のギャラで主演交渉するスカーレット・ヨハンソンの名を用いてハリウッドの裏を皮肉る。また、アルトマンにも言及している。)映画作りについての映画とも言える、ヘルマンの映画愛を感じさせる。

サミュエル・フラーが、映画制作においてキャスティングが重要であり、俳優に対して一言、「演じるな」といった名言。
映画の撮影後に、監督が女優と二人きりで名作映画のラストシーンを見届けて、監督が悦に浸るシーンと台詞がシネフィルのツボを押さえる。

作中で引用される映画のワンシーン
▪️タイトル不明・白黒フィルム・ノワールかと思いきやラストは完全なコメディ。
女優「コメディは傑作になり得るのか?」
▪️『ミツバチのささやき』
私はアナよ…のラストシーンを身終えた監督「Fxxk!不朽の名作だ…。」
▪️『第七の封印』チェスのシーン
これまでに何本の映画を観たかと女優から問われた監督が、「他人の描いた夢に捧げた時間を語るのはナンセンスだ…。」のような台詞。

「For Laurie」と最後に提示され、『断絶』のローリー・バードに捧げられた映画であることが分かる。
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