まぬままおま

悲愁物語のまぬままおまのレビュー・感想・評価

悲愁物語(1977年製作の映画)
4.2
鈴木清順監督作品。

取り敢えず貧しい女のれい子が弟と愛する男・三宅のために、生まれ持ったゴルフの才能で成功する物語と言える。「昭和な」特訓をしたり、ゴルフ大会でのライバルとのドラマもある。まさにスポ根だ。しかしその物語は、予定調和のようにあっけなく終わり、彼女は豪邸と名誉を得るのである。

彼女は成功しても、三宅は自分のものにはならない。豪邸は近所の人の妬みにつながり、疎まれる。そして平凡な主婦の加世とは轢き逃げ事件をきっかけに、愛憎入り混じる関係になっていくのである。本作はスポ根のジャンルにありながら、ヒューマンドラマへと横滑りしていくのである。そしてむしろこの人間模様を描くのが主題である。

彼女が成功すればするほど、彼女を取り巻く状況は悪くなる。
はじめは加世がれい子につきまとう。れい子も社会的に孤立していくから、加世と親しくなってしまう。この感覚何となく分かる。そして加世のつきまといが、三宅による恐喝まがいの示談によって中断しようとも、れい子は加世を迎えてしまうのである。
そして加世がれい子の豪邸を自分のもののように扱い、主婦たちを招待する。そして豪華なパーティーが開かれる。れい子が主婦らと豪邸に呼ぶほど打ち解けたと表面的には捉えられるが、プライベートが侵襲されているということでありかなり気味が悪い。
極めつけは加世がれい子に夫を抱かせることである。それは平凡な主婦として「女であること」を否定された加世にとって最も嫌なことである。しかしそれをれい子にやらせる。狂気としか言いようがない。

物語の終わり方は悲愁である。彼女は弟の手によって死に、豪邸は焼けていく。ブラウン管とともに彼女の成功も焼け溶けていくのである。