イチロヲ

悲愁物語のイチロヲのレビュー・感想・評価

悲愁物語(1977年製作の映画)
4.5
恋人の編集者(原田芳雄)に煽てられ、タレントデビューを果たした美人プロゴルファー(白木葉子)が、熱烈ファンの近隣主婦(江波杏子)に弱みを握られてしまう。女性アスリートの急変劇とファン心理の暴走劇を描いている、サスペンス・コメディ。

「意味不明な映画ばかり作るから」という理由で日活にポイ捨てされた鈴木清順が、10年ぶりに監督復帰を果たしている作品。スポ根の梶原一騎(原作)と型破りの大和屋竺(脚本)が化学反応を起こしており、途中から不条理ギャグ路線に転調する。

ヒロインが競技者とタレントの二者択一を迫られるパターンかと思いきや、セレブと一般庶民の両視点から、熱しやすく冷めやすい、興味と無関心の混沌状態をスケッチしていく方向性へと着地。虚を衝くようなシナリオ展開が、あまりにも面白い。

後半部に入ると、敵対側の江波杏子へと事実上の主役交代。「あの女を徹底的に懐柔してやるわよー」から「わたしは一体何をやっているのだろう」までの流れを、フィジカルな芝居で見せてくれる。頭のおかしな人を観ることの面白さに満ち溢れている快作。
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