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父子草のsayuriasamaのレビュー・感想・評価

父子草(1967年製作の映画)
5.0
生きていた英霊と苦学生の「家族愛」そして人の心の温かさ、弱さ..

楽しみにしていたラピュタ阿佐ヶ谷開館20周年記念リバイバル企画のトリを飾る作品。本当に良い作品でした。

登場人物は
飯場を渡り歩く、絵に描いたようなダメオヤジ平井(渥美清)
駅前の屋台おでん屋の女将(淡路恵子)
夜勤アルバイトをしながら進学をめざす予備校生西村(石立鉄男)
予備校生の友人(星由里子)
の4人
(強いて言えば+サイレントの回想シーンにのみ登場、ダメオヤジの故郷の父(浜村純)を合わせて5人かな)

うーむ、味のある映画でした。
渥美清演じる平井は、おでん屋でぐだばかり巻くうるさくて口の悪いオヤジ。西村とも、女将とも最初はケンカばかり。(ここらへんの雰囲気は寅さん感もあるっちゃあるけど、本作は寅さんになる前の撮影。)
でも、実はそんな口の悪さは本心ではない、人生の悲しみという悲しみを経験した人間の弱さ、繊細さからくるものだった...

やはり回想シーンは涙無しにはみられません。「生きていた英霊」とは平井のように戦地で散ったと思われていたものの、その後生きて帰ってきてしまった人のこと。平井も故郷佐渡に妻と子供に盛大に見送られながら出征して、命からがら帰国も、そこには残酷な現実が待っていました。(戦死した訳ではありません。気になる方はググればネタバレあります。)

そんな話を優しく聞く、女将もカッコよかったなあ。あんな女将のいる店なら安酒でもうまいんだろうなあ。

反面、苦学生西村とその女友達との友達以上恋人未満のキラキラ清らかな交流は戦後の新しい時代を担う明るさがあったなあ。それでも、女の子の家は事業に失敗して夜逃げしちゃうのにね。ノートに書いた置き手紙はピュアでストレートでかわいい。ああいう告白いいね。

そしてタイトルにもある父子草。どうやらナデシコの別名のように扱われていますが、そんなことよりも、平井と交わしたの約束通り花を咲かせるために、また花を見られるように、家族愛の象徴としてのものでしょう。
また、平井も、厳しい飯場での仕事を西村のために頑張り、西村も平井の援助に甘えることなく真剣に頑張る姿は、人間の支えあう美しい姿でした。
人間は1人でも心から応援している人がいれば、その人のために前向きになれるし、1人でも応援してくれる人を知っていればもう一踏ん張りできるのでしょう。

本当にいい映画でした。平井のような苦しみを味わった人は、いくら長生きの方でも、そろそろいなくなってしまうでしょう。戦いのシーンなく、戦争の苦しみを後世に伝える作品として、また登場人物の数が少なくとも実力ある役者が揃った迫力と繊細さ両輪が素晴らしい作品でした。


追伸:当然、本作ではもじゃってない石立鉄男が観られます。いつものように、素朴で素直な好青年です。なんとなく、後年の石立ドラマの口は悪いが心はやさしいキャラはこの時の渥美さんのキャラの雰囲気もあるなあと思いました。気まぐれ本格派とか。
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