文鳥

ブルーバレンタインの文鳥のレビュー・感想・評価

ブルーバレンタイン(2010年製作の映画)
5.0
年に最低でも2回は見直す作品。この年の瀬に、自分の正気を保つために鑑賞。毎回朝に子供とライアン・ゴズリングに叩き起こされるシーンで涙腺が崩壊する。犬の死から始まる死のにおい。自分の子供ではないが、愛した女のために人生を捧げた男の話。未来ルームに行く二人。「愛ってどんな感じ?」「私はまだ辿り着いてないわ」祖母とシンディの素朴な会話。「いつか消える感情なんて信じられる?」と愛に不信感と希望を持っていない女の切実な感情が痛いほど身にしみる。愛を信じる権利の話。自分を信じるのよとシンディに語るおばあちゃんの言葉は自分に語りかけられているような感覚に毎回陥る。ライアン・ゴズリング演じるディーンとミッシェル・ウィリアムズ演じるシンディの出会いのシーンは毎回胸が苦しくなる。「カエッテって名前?」笑う。夫にも父にもなりたくなかった男が、でもこれが自分の求めていたものなのだと自分の人生を肯定している。他には何も望まない。家族のために働くだけなのだと自分に言い聞かせるように女にいう。才能の話になると怒り出す男。過去にしたいことを女が過去にさせてくれない。そこに苛立ってしまい、また喧嘩になる。しかし未来ルームでは戦いましょう、とプロレスが始まる。自分の子供ではないのに父になり、男なりに愛情を注ぐが、どうにもうまく歯車が噛み合わない。安いモーテルの中で酔って身体を求めたふりをするも、「欲しいのは体じゃなくて、君自身だ」という。中絶中のシーン、ゴズリングの姿がなんとも言えない産婦人科の男の様子を体現している。パッケージになっている有名なバスのプロポーズのシーン。分かっていても毎回泣いてしまう。「愛してる、家族になろう」泣く。この辺りから幸せな時期と別れの匂いを纏ったカットバックの濃度が加速して濃く、鋭利になってくる。現代、病院の待合室に乗り込んでくるゴズリング。ナースステーションで「もうあなたを愛していない」「取り返しのつかないことを言うなよ」今回の号泣のピークはここでした。言い争いの後、指輪を草むらに捨ててしまうゴズリング。しかし、すぐに我に返って探し始める。それをみて、一緒に探し始めるシンディ。その二人の後ろ姿にまたなく。別れ話の後の家族の会食シーン、うぐぐとなる。未来しか見えていない男女と、終わりしか見えていない男女の明暗。別れたくないがどうしたらいいのかわからない二人。自分が悪かった、変われると泣きながら言うゴズリングの演技はもうどうにもならない二人の空気感がこれでもかとこちらに押し寄せてくる。ああ、ダメになる時の感じってこうだった。そうだそうだと思い出す。その後のカットバックはウェディング姿の二人。ここら辺で限界突破が起こる。泣きすぎて頭痛い。「何考えてるの?」「気が変わらないうちに早く結婚式をあげなくちゃ」と、なんて愛情しか感じないシーンなのだろうか。しかしそんな未来しかないような二人に待ち構えているのは別れという未来だった。花火が打ち上がる道の中で、ふた。子供のフランキーが父の後ろを掴む。しかし父にどっちが先に家に戻れるのかかけっこを持ちかけられて走り出してしまう。走って母の胸に飛び込むとそこには去っていく父の姿があった。泣くフランキー。子はかすがいにはならない。二人の愛情はどこに行ってしまったのだろうか。全てのものには終わりがやってくる。未来や愛情を信じられないあなたにおすすめです。トラウマ映画なんて失礼だと思う。傑作。毎回辛いことがあるたびに見直すけれども、今日見たのは何回目だろうと思う。心の拠り所の一本です。
文鳥

文鳥