Maoryu002

自転車泥棒のMaoryu002のレビュー・感想・評価

自転車泥棒(1948年製作の映画)
4.5
第二次世界大戦後のローマ。アントニオは仕事中に自転車を盗まれてしまい、やがて他人の自転車を盗んでしまうが、すぐに捕まってしまう。解放されたものの、息子ブルーノの前で盗みを働いてしまったアントニオは涙をこぼし、ブルーノの手を取り歩いていくのだった。

人ばかりが多く何もない町、そしてアントニオの何もない部屋が戦後イタリアの姿を象徴的に表している。
男たちは仕事に群がり、闇市には活気がある。敗戦国として、日本と似た状況にあったことがわかる。

そして、映画は盗まれた自転車を探すシーンが長く長く続く。それは職だけでなく、幸せや生きる目的を失わないための必死の行動に見える。
アントニオという優しく穏やかな男が徐々に自分を見失い、教会でミサを乱し、息子に手をあげてしまう。さらにバカにしていた占い師のところに駆け込み、最後には自転車を盗んでしまう。

最後のシーン、アントニオは自分のやったことの愚かさと重大さに呆然とする。取り返しがつかないことであり、親にとっても子供にとっても、一生消えない傷になってしまったのだ。
人間が優しさや理性を失っていく様子が泣けるほど見事に描かれている。
それでも最後、親子は手をつないで歩いていく。一生残る傷を心に負いながら、親は子を守り、子は親を信じて生きていく。残酷だけれど僅かな救いを残しているかのようだった。

こんなにつらい映画もない。ヴィットリオ・デ・シーカ監督は後に撮る「ひまわり」といい、あまりに悲しすぎる映画を作る。
しかし、これこそがリアリティだ。
非商業主義の象徴のように言われる意味がよく分かる。
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