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デッドマンのtoriten45のレビュー・感想・評価

デッドマン(1995年製作の映画)
5.0
ジム・ジャームッシュと西部劇とニール・ヤング。いずれも好きで、思ってもない組み合せが嬉しかった作品です。満足度マックスだから星5つ。再鑑賞するの何回目だろう。

西部開拓時代。東部の都会クリーブランドからはるばる西の最果ての町“マシーン”にやってきた会計士(ジョニー・デップ)。町を支配するディキンソンの御曹司を、到着したその日にひょんなこと殺してしまい、自らも深手の傷を負う。そしてディキンソンが放った3人の賞金稼ぎから追われる身となり、未開拓の土地を奥へ奥へと逃げていく。

物哀しさが作品全体を支配していてそれが美しいです。そして、シンプルでしっかりとしたストーリーを追っていきながらも、音楽を聴くように鑑賞する不思議な感覚に包まれます。

まず、作品を彩るニール・ヤングによる劇伴が素晴らしい。エレキ1本で奏でる乾いた感じで物哀しさと力強さが入り混じったような調べ。本作のラフを見ながら即興で作ったのだそう。収録の場では「気に入ったところを使えばいいよ」と言い残して去って行ったそうです。なんともレジェンドらしいエピソード……。

また、物哀しさが支配しているのに決して暗くないのは、ジム・ジャームッシュの独特なユーモアも冴え渡っているから。何とも言えない可笑しさがあらゆるところに散らばっていて楽しい。

そしてキャスティングも最高。都会からやってきた会計士にはジョニー・デップ。服装や挙動が、ワイルドウェストな町に全く不釣り合いな感じが絶妙でした。初めて訪れた最果ての町にキョロキョロする会計士の目を通じて、西部のディープな世界に浸っていきます。とりわけ、この支配者を演じるロバート・ミッチャムがいい。大物ベテラン俳優が1人いることで、ウェスタン感がぐっと倍増しになりますよね。

なにより『デッドマン』が素晴らしいのは、難解に陥りそうな死生観を、とてもシンプルに仕上げたところだと思います。深傷の傷を負って瀕死状態な会計士は、賞金稼ぎから逃れるようにアメリカ西部の奥へ奥へと進んでいく。そして奥へと進むごとに、作品は逃避行劇から死をテーマにした散文詩のような雰囲気へと変化してゆきます。その変化を、美しい映像と音楽、そして透き通ったようなジョニー・デップの演技を通じて感じ取ることができます。

会計士が死ぬか死なないかの結末はさほど重要じゃない……そんなことを思わせてしまう作品でした。何回も観て来たし、これからも何回も観るんだろうなー。
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