まさかこんな醜悪な世界があるとは思わなんだ。
原題は「UP foR GRABS」でチャンスは誰にでもある、といったようなニュアンスのイディオムなんですね、これ。うん。邦題のセンスはまさに馬鹿そのものなので、ある意味ではこの映画にふさわしくはある。
それにしてもたかがボール一つでここまで醜い争いを展開できるとは。
ここで描かれるのは人間そのものの醜悪さであると同時に人種差別の視線もある。エコノミック・アニマル、という蔑称も最近は聞かなくなりましたけど当時ではまだ通じていたのでしょうし。
この映画のつくり自体がパトリック・林の話を聞こうとしない(前半までは)あたりも凄まじい。僅かに彼の主張(というか反応)をインサートするけれど、あまりに多勢に無勢で。
彼を擁護する白人の青年もいるのだけれど、何故か彼だけコンビニの店内でインタビューに答えている。ホワイトトラッシュとまではいかないけれど、些か虚仮にするようではある。そういう白人に擁護される日系人という構図を作っている。
が、このまま一方的な口撃が続くのかと思いきや、30分あたりで今度はアレックス側への反撃が開始される。
まあアレックスは最初から胡散臭い人間として描かれてはいましたけど、それにしてもアレックスが明らかに三下の悪役の動きをしていて、後半はもう笑うしかない。
ところどころで流れる歌も皮肉が利いていて、というか直球すぎて。アレックスが金髪ブロンドをナンパしている場面とか、あれヤラセじゃないのかと疑うくらい品性の欠片もないんですけど、カメラの前であんなことするもんなんだろうか。メリケンの考えることはわかりません。
それはさておき落札価格が決まったときのアレックスとパトリックのツーショットの顔最高。
いやもうね、最後のオチに至るまで最高に面白いです。なんかもう、本当この話一つで教訓が出来上がっていますし。
笑えるドキュメンタリーって何気に自分としては新鮮ですし、人間の滑稽さを堪能したいのであればこの一本は最良でございますな。
えーところでエンドクレジットで登場した彼は一体どういう経緯で登場したんでしょうか。しっかりとクレジットにも名前乗ってるし。