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ひろしまのにしやのレビュー・感想・評価

ひろしま(1953年製作の映画)
3.8
被爆者の少年少女たちの視点で話が展開されていくのは予想してなかったので意外な構成だったけど、おかげですんなりと腹落ちする話になっていた。
被爆者の少年が、クラスメートたちに「僕らが体調が悪いというとすぐに“原爆に甘えている”と言われる。だから大半の被爆者はケロイドの跡を隠してひっそり生きるほかない」と語るシーンはびっくりした。原爆に甘えているってえげつないワードだ…。
担任の先生さえ「戦後に赴任してきたから原爆のことはよく知らないんだ」という始末。
でもGHQ統治下の日本だと原爆まわりの情報は厳しく管理されてたそうだし、被爆者差別も実在したので、本当にそういう空気感だったんだろうなあ…。
原爆ドームの前で観光客相手にケロイドの跡を見せて稼ぐ被爆者のおじさんの姿が生々しかった。

原爆症で倒れたクラスメートを囲みながら『僕らはごめんだ 東西ドイツの青年からの手紙』を読み上げるシーン、同じ被爆者の少年が「いいか、ここからが僕らが知りたいところだ」と言って“なぜ広島に原爆が落とされたのか”を朗読するのがめちゃくちゃ印象に残った。
この後「ドイツでなく日本に原爆を落としたのは、日本人が有色人種だからだ」と続くのだけど、それは確かにあるのかもなあとちょっと思った。
マンハッタン計画が成功したのはドイツ降伏後なのでドイツに落とされることはどのみちなかったとは思うけど、感覚として他人種だから…ってのは多少あったんじゃないだろうか。なんもエビデンスないけど。
(このシーンを見つつ、こうの史代の「夕凪の街」の“原爆を落とした人はわたしを見て「やった!またひとり殺せた」とちゃんと思うてくれとる?”というモノローグを思い出した。誰かに存在を全否定されて、世間からも疎まれて隠れるように生きるしかないっていう絶望感は確かにあったんだろうな…。)

原爆投下後の広島のシーン、実際の被爆者がエキストラで参加してて画が強烈だった。エキストラ8万人ってやばい。
百聞は一見に如かず、ショッキングではあるし実際の映像ではないけど目に見える形で残すって大事だなあと思った。
特に原爆投下後の広島を撮影した映像はほぼ残ってないので、十分に意義はあると思う。

原爆投下後の広島のシーンで流れるBGMが初代ゴジラのゴジラ強襲後の病院で流れる曲とかとそっくりでびっくりしたんだけど、伊福部昭が本作の翌年公開だったゴジラで転用してたそう。

その他印象的だったシーンなどなど
・「70年は草木が生えない」という言葉を覆すために大根の種を植える医者。
・被爆者の浮浪児を無視する観光客。
・「原爆でこんな体になった以上、嫁には行けない。だから冗談でも結婚してやるなんで言わないで。残酷すぎるわ」
・勤務先の工場が大砲の玉を作り始めたので恐ろしくてやめてしまう遠藤くん。


以下メモ
『僕らはごめんだ 東西ドイツの青年からの手紙』篠原正瑛
『0の暁 原子爆弾の発明・製造・決戦の記録』ウィリアム・L・ローレンス
『原爆の子 広島の少年少女のうったえ』長田新
「チャップリンの殺人狂時代」
「原爆の子」
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