レインウォッチャー

ケロッグ博士のレインウォッチャーのレビュー・感想・評価

ケロッグ博士(1994年製作の映画)
3.0
現代社会で結局「売れる」話題といえば、《金儲け》《恋愛(性)》、そして《健康》なのだそう。
どれもがインスタントな欲で釣るものであり、中でも《健康》は科学の常識(エビデンス)が置き換わってゆくことでみるみる鮮度が減じていくわけだけれど、それゆえ常にブームの可能性がある、ともいえるだろう。

それは100年ほど時を遡ってもやはり変わらないようで、当時のアメリカでも一世を風靡した覇者がいた。J・H・ケロッグその人である。
コーンフレークの社名として耳馴染みのある人物、実は発明家であり、件のコーンフレークも健康食品のひとつとして開発、売り出して成功した健康ビジネスマンでもあった。この映画は、そんな彼のぶっ飛んだ健康追求思想を誇張してMADでPOPなブラックコメディに仕立てた作品…

…って、思うじゃん?

しかしどっこい、いざ彼のwikipedia(※1)を読んでみれば、「あれ…?あながち誇張でもないんじゃあないか…?」ってことがわかってくる。
このまんまカルトなサナトリウムも、二言目に浣腸を持ち出す治療法も、過剰なセックス/オナニー排斥も、まさか実在したとは…事実は映画より奇なり。コーンフレークといえば、某漫才コンビは「コーンフレークは生産者の顔が見えへんのよ」と言っていたけれど、こんな顔なら見えなくてちょうどよかったよね。

とはいえ、彼等を嗤ってばかりはいられないのも確かだ。冒頭に書いたようにこの類の常識はナマモノであり、わたしたちが当たり前と考える日常や秩序も、100年後には物笑いの種になているかもしれないのだから。もしかすると、その時には再びケロッグ博士の時代が来ていたりして。

今作は、ナンセンスと不謹慎とエロの椀子そばの渦中でそんなことを思い出させてくれる映画だ。同時にこれだけはおそらく真理だと気付くのは、「過ぎたるは及ばざるがごとし」ってことだろうか。
こんなんなんぼあってもええですからね、そうは言ってられないこともあるのだ。

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監督のアラン・パーカーさんといえば、わたしの映画体験の中では『Fame』の監督である。あちらは青春ミュージカル学園群像劇といった作品であり、今作とは趣が異なるけれど、「集団(モブ)」の撮り方の巧さ・面白さには共通したものを感じる。

今作の舞台となるサナトリウムで、トンデモ健康法に勤しむ数々の老若男女たち。その「常に何か動いている」情報量の多さ、躍動感からは『Fame』のエネルギーを思い出す。また、当時(19世紀末~20世紀初め)を反映した衣装の数々も相俟って、時には狂ったルノワールみたいな絵面になってて見応えがある。

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ケロッグ博士を演じるのはアンソニー・あんた何やってんですか・ホプキンス。出っ歯のメイキャップが悲しい。
思えば、今作では超菜食信者のマッド博士を演じた彼だけれど、この少し前にはレクター博士(『羊たちの沈黙』)=ある意味で肉食を極めし者でもあったわけだ。振れ幅大きすぎて首もげなかっただろうか。この後遺症によって、後年『ファーザー』でボケてしまったのだろうか。

その他のキャストでは、B・フォンダの水際立った美しさが目を引く。映画史上でもA5ランクのおっぱい様ではなかろうか。

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※1:https://ja.wikipedia.org/wiki/ジョン・ハーヴェイ・ケロッグ

このwiki、単なる情報としてだけでなく読み物としてちゃんと面白い(むしろ映画よりも?)。たまに、筆致に書き手の確かな意思を感じるのだ。

たとえば、
・性教育の第一人者として広く認められていたが、彼自身は「結婚していた40年で一度も妻と性交をしたことがない」と自慢げに語っている。
・これらのほとんどは医学的根拠はないものの、現在でも名を変え多くの健康サービス機関や医療機関などでも使用されている。

とか。
こういう、アイロニーの刃が懐からチラチラ光ってる文章、とても好きです。