猫脳髄

デモンズ’95の猫脳髄のレビュー・感想・評価

デモンズ’95(1994年製作の映画)
3.7
年末年始ユーロ・ゾンビ特集4/7~イタリア編③

ジョー・ダマト、ダリオ・アルジェント、ルチオ・フルチ、ランベルト・バーヴァとイタホラ全盛期の巨匠たちの作品に俳優・スタッフとして参加してきたミケーレ・ソアヴィが製作・監督したコメディタッチの異色ゾンビ・ホラー。イタホラ特有の残虐性やエロスをそのままに、ソアヴィの美意識とテリー・ギリアム風(※1)のファンタジックなシナリオで類例を見ない作品に仕上がった。

埋葬から7日以内に死者が蘇る(※2)という墓地を管理するルパート・エヴェレット(※3)と相棒の口がきけない巨漢は、毎晩蘇る死者たちの処理に倦んでいた。そんななか、夫の葬儀に参列した未亡人(アンナ・ファルチ)に一目ぼれしたエヴェレットは、彼女と墓地で契りを結ぶ。しかし、土中から蘇った夫に噛みつかれ、彼女はあえなく命を落とし…という筋書き。

ファルチ演じる「彼女」はゾンビとしてだけでなく、様ざまな姿の別人としてエヴェレットの前に登場し、「運命の女」として彼を翻弄する。やがて幽明の境がつかなくなった彼は、真実の愛を求めて無軌道な行動に出るが、クライマックスでこの世界の真相に行き当たり愕然とする。ゾンビはひとつのモティーフに過ぎず、暗く単調な世界に生きてきた主人公のアイデンティティの目覚めと模索、それに対する世界からの返答というスケールへと物語が拡張する。

エヴェレットやファルチのヴィジュアルやアート作品に根差したこだわりの画づくり(※4)で、夢幻的なシナリオにグイグイ引き込んでいく。一貫性のなさに戸惑うところもあるが、それこそファンタジックな着地点により、不思議と腑に落ちることになる。ソアヴィはイタホラ全盛期の最後の世代になってしまったが、その精華というべき見事な出来栄えとなった。

※1 実際にテリー・ギリアムの助監督をつとめている
※2 作品内での呼称は「リターナー」
※3 原作者によるコミックのモデルがエヴェレットだったそうだ
※4 管見では、マグリット、ベックリン、コッラディーニ、ダリなどからの引用が確認できる
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