さまよえる象人間

ハルクのさまよえる象人間のレビュー・感想・評価

ハルク(2003年製作の映画)
1.0
アメコミ版『ジキル博士とハイド氏』とも言うべき題材であるからして、憎々しい敵のいぢめっぷりや凶暴なヒーローの爽快な暴れっぷりを堪能できるかと思いきや、やってることは「マザコン兄ちゃんが終始ヒィヒィ言ってるのを鉄面皮ヒロインが星飛雄馬の姉ちゃんよろしく黙って見守る辛気くさいドラマ」というアホ振り。いくらなんでもアクションらしくアクションが後半に入ってようやく、というのは不味かろう。
アン・リーはブルース・バナーのトラウマと心情に重きを置いたドラマを作ろうとしているようだが、映画を観る限りでは成功していない。過去の因縁に焦点を合わせようにも基本的なストーリーは軍事研究と陰謀がメインなので、そっちを語ろうとすると主人公のトラウマ話が却って邪魔になってしまうからだ。大体主役二人の演技が終始仏頂面でまるでコントロールされてないのはなんとかしてほしい。
この映画は画面分割を漫画のコマに見立てたり次シーンの絵をオーバーラップさせたりすることによってスクリーン上で漫画のページを再現しようと試みているのだが、アクションシーンになると一切この演出が使われなくなるのでほとんど意味がない。加えて家族間の殺人や虐待シーンが次々と展開する中ですら妙にポップなコマ割りやワイプを繰り返しているので、観ている側は感情の置き場がわからなくなってシリアスなドラマへの没入を妨げられてしまう。
この映画を観ているとバーホーベンの『ロボコップ』のことを考えてしまう。バーホーベンは悲惨で暗い設定をアップテンポな語り口と役者のテンションによって軽快に演出することによって、シリアスでありながら爽快で笑えるアクション映画に仕立て上げた。それに対して今作は漫画的誇張がグロテスクで暗い人間ドラマと全く噛み合っていない。