TOMJFK

沈まぬ太陽のTOMJFKのネタバレレビュー・内容・結末

沈まぬ太陽(2009年製作の映画)
4.5

このレビューはネタバレを含みます

最高傑作!日本映画の金字塔です!

観終わって深い余韻が残りました。
こんな深い余韻は「JFK」や「タイタニック」や「JSA」以来です。
この映画は日航123便で亡くなられた520名の御霊への鎮魂作ですね。
映画が始まり5分で涙が出てきました。
123便の機内状況シーン。
長く語られてはきましたが、こんな本格的な再現シーンは、おそらく24年間で初めてではないでしょうか。
何も考えず映画館に入った自分も、ここで否が応にも、この真剣な映画を見届ける覚悟をすることになりました。

以下、感想を4つの角度から述べます。

【1】主人公たちのキャラクターも、しっかりしていて、それぞれに素晴らしい。
渡辺謙(恩地)の、意志を貫き通す、一本気な生き様。
三浦友和(行天)の、自分の心に蓋をして、暗く世俗をしたたかに生きるニヒルな生き様。
松雪泰子(美樹)の情緒豊かだが、愛する男のために悪魔にもなる女の生き様。
鈴木京香(りつ子)の、夫の判断に自らの運命や幸せも委ねる覚悟を決めているつつましい生き様。
石坂浩二(国見会長)の、穏やかだが、犠牲者のために仕事を引き受けたからには、邪悪や不正に対し、鬼のような凄みを見せる生き様。
宇津井健の、ぼくとつだが花を慈しむ優しさを持ち、しかし、この世の不条理と直面し(妻に先立たれ、息子夫婦と孫を事故で失って天涯孤独に)、お遍路さんになる生き様。(恩地が最後に送る手紙に「私の周りで起こっていることなど、貴方の絶望と比べたら、取るに足らない」と語るのが印象的です)
さらには首相役の加藤剛や、国会で与党を追及する代議士の田中健、不気味な存在感を見せる「関西のドン」品川徹などなど、素晴らしい演技が続出です。
そのような強力な演技陣で展開する、恩地と家族の「人間ドラマ」。

確かにこれが本作の重要なテーマですが、それと平行して、
【2】終始一貫して520名の犠牲者とその遺族のことを重要視して描いており、そこに私は最大の評価をいたします。
上述の機内シーンでは、乗客が「どんなに怖い思いをしたことか、どんなに口惜しい思いをしたことか」に思いを馳せざるを得ません。
だから冒頭のこのシーンから、涙することを禁じえない。
また、バラバラの機体が散乱し、遺体も埋もれる事故現場。
ヘリコプターから次々に運び込まれるビニール袋(遺体)。
体育館に並ぶ数百の棺。
御巣鷹山に並ぶおびただしい数の墓標。
何年経っても心の傷の癒えない遺族。(宇津井健や、アル中になる木村多江が印象的です)
以上のことをしっかりと描いた勇気に、最大限の敬意を表します。
これは、「風化させてはならない未曾有の悲劇的な出来事だから」との強い良心があったからこそ、描けたのだと思います。
いい加減な気持ちでは、決して描けません。
申し訳ありませんが、「クライマーズ・ハイ」では、正面から描くことを逃げたと思います。

【3】また、社会の不正や闇についても、真正面から描く勇気に拍手を送ります。
★パーティでは皿を山盛りにし、女やゴルフなど、日航にタカリまくる新聞記者。
★大量の株主優待券を、金券ショップで換金して裏金を作る幹部たち。
★遺族に冷淡に損害賠償額を提示する日航社員と、現場と無関係に贅沢三昧の上層部。
★海外ホテル買収の不正経理で、私腹を肥やす幹部。
★10年もの外国為替取引で、不正利益を上げ、政治の裏資金にする与党政治家たち。(良心的と思えた首相も、この問題を隠蔽するため、国見会長を切る)
こうしたいわゆる「タブー」を、恐れず淡々と描くスタッフの勇気に脱帽です。お見事です!

【4】音楽が素晴らしい。
レクイエム(鎮魂曲)とサスペンス風の曲とで展開する音楽が、成功した理由でしょう。
10分間の休憩時間も、この音楽のお陰で、席を立つこともなく、余韻に浸ることができました。
見終わってサウンドトラックを購入しようと、お店を廻りましたが、品切れ店、続出状態です。

まだ私は原作を読んでいません。
しかし、映画を上回る内容であろうことは想像できます。
この凄い原作があったればこそ、本作のような日本映画の金字塔的な作品が生まれたのですね。
この作品を世に出されたスタッフ・キャストの皆様に、感謝いたします。
私の生涯、変わらぬ「お気に入り映画」となりました。
世界中の多くの方々に、映画館で観てほしい一作です。
TOMJFK

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