りっく

戦火の馬のりっくのレビュー・感想・評価

戦火の馬(2011年製作の映画)
4.2
個人的に映画と最も相性がいい動物は「馬」だと思う。風になびくたてがみ、荒々しい息遣い、凛とした佇まい。走る度に蹄からは心地よい音が鳴り響き、黒々とした瞳は強さや弱さが同居している。スクリーンの中心に存在するだけで、これほど「画」になる動物はいないのではないか。それを作り手たちも十二分に把握している。青空をバックに、雪の舞う中で、あるいは夕陽の光を浴びて映される馬のクローズアップ。その姿の、なんと美しく、逞しく、そして神々しいことか。見るだけで無意識に涙腺が刺激されてしまうのだから不思議なものだ。馬を見つめる誰もが、温かな眼差しを向けているのも心地よい。馬を見つめる視線、馬を想う気持ちは敵・味方関係なく、共に同じなのであろう。そこに説得力を持たせるだけの堂々とした風格がある。

本作は涙腺を刺激される場面が数多くある。それは作り手が意図して感傷的な見せ方をしているからだろう。本来であれば「反則だろ!」と、文句の1つや2つ言いたくなるような演出を、超一流のスタッフは堂々とやってのける。監督スティーヴン・スピルバーグ、撮影ヤヌス・カミンスキー、音楽ジョン・ウィリアムズ。これだけのプロフェッショナルが揃えば、観客は抵抗するまでもなく、ただただ涙を流すことしかできない。

物語はいたってシンプルだ。映画で何度も繰り返し語られてきた「行って帰ってくる物語」であり、「帰るべき場所に各々が戻っていく物語」である。激動の時代に翻弄される者たちを、圧倒的なスケール感で描き切る語り口は、まるでデヴィッド・リーン作品を観ているようだ。あまりにもオーソドックスな展開に冗長な印象も受けるが、同時期に作った3D映画『タンタンの冒険』とは一転して、映画の原点へと回帰したような風格が漂う大作である。
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