《夢と冒険を愛する人に》
《荒唐無稽の楽しさ バカバカしさを愛する人に》
《この映画を捧げる》
元祖・映画バットマン!!総天然色!!TVシリーズから飛び出して大活躍!!オープニングから本作のスタンスを表明するように上記のテロップが出てくるのがとても清々しく、その心意気が何だか憎めない。当時のコミックを踏襲した完膚無きまでのファミリー向け映画であり、後年のダークナイト・トリロジーの系譜に慣れ親しんだ現代人から見ると仰天の明るさ。警察などの公的機関から全幅の信頼を置かれ、老夫婦から「バットマンが来たから今日も誰かが救われる……」と笑顔で見送られるなど、バットマンに対する社会的信頼の厚さにたまげる。バットマンがほぼ青空の下で活躍し、夜間活動のシーンが殆ど無いことも(現代の感覚では)一層新鮮さを際立たせている。
オープニングにおけるビビッドな照明や小粋で洒落た音楽、ポップな美術設定など、何だかんだ言って要所要所での演出が中々に印象的。黒いボディと赤いラインが目を引くバットモービルなどのデザインは良い意味でカートゥーンっぽくて好き。お馴染みのバットモービルを中心に、とりあえず“バット”を冠詞にした秘密兵器のネーミングもフフってなる。“バットコプター”はギリ納得できるが“バットはしご”は半ばヤケクソじみてて好き。それとたまに結構大胆なスタント&撮影もしているのが目を引く。コミカルな演出と噛み合っている軽妙なテンポもやはり楽しくて、良い意味でコント的な小気味良さがある。冷戦下という当時の情勢を意識させるような描写が散りばめられているのも印象的。
技術的に色々と興味深いところはあるものの本作の目玉はやっぱりコメディ要素で、過去のトラウマなど欠片も感じさせないバットマンとその相棒ロビンが清々しい活躍を見せる。サメと格闘を繰り広げたり爆弾を抱えてあたふたと走り回ったりなどするバットマン、もはや現代では絶対に見れない姿でほんとすき。二人とも大仰な演技で真剣にやっているのが却ってシュールな面白さを際立たせている。「海といえばペンギン……!」「魚と言えばネコの好物だ!」などの連想ゲームじみた推理シーンは微笑ましい。
バットマンと敵対するヴィラン連合も妙に味わい深く、しょっちゅう仲間割れをしながらも仲良く大騒ぎする姿には憎めないものがある。今では悪の代名詞となっているジョーカーは勿論、ペンギンもリドラーもキャットウーマンもコミック的文脈のキャラ付けなので愉快だ。後年の映画作品に馴染んでいると彼らのぞんざいな扱いに中々ビビる。バージェス・メレディスを始めとする往年の名優達が配役されていて更にビビる。それとあの空飛ぶ傘には度肝を抜かれる。
今となっては(当時でも?)馬鹿馬鹿しくツッコミどころ満載だが、本作の志と演出は何だか嫌いになれない。というか寧ろ微笑ましい。現代のバットマンとは一線を画す無邪気さは一周回って新鮮で、その突き抜けた明朗性からはある種の心地良い刺激を感じてしまう。しかし「自然の摂理を犯してはならない……」と格好良くロビンを諭した直後に「これでいい、言葉と心が混じり合う……」と結果オーライみたいな雰囲気でラストを締めくくるバットマン、何なんやねん。