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MEMORIESのZUSHIOのレビュー・感想・評価

MEMORIES(1995年製作の映画)
5.0
過去に観た名作アニメを見返す週間で、今敏監督の『パーフェクトブルー』に引き続き鑑賞。
意識したわけではなかったが、『MEMORIES』の第1話の「彼女の想いで」の脚本は今敏。連続して観ると、まさに『パーフェクトブルー』と共通した今敏的テーマだった。特に、恋人が裏切らないうちに殺害していたマダム・エヴァの行為などは、『パーフェクトブルー』の犯人の行為と共通する「美しいもの(虚構)が現実に崩壊されるぐらいなら破壊してしまった方が良い」という動機によるものだと思うし、「他者との境界線も曖昧な終わらない虚構の世界に逃避すべきか」という、奇しくも同じ年にテレビシリーズが始まっている「新世紀エヴァンゲリオン」が最終的に劇場版でたどり着くテーゼとも共通している。オウム真理教による地下鉄サリン事件など、現実を虚構が侵食するような象徴的事件が起きた年にできた傑作だと思った。とりわけ「彼女の想いで」は、「エイリアン」と「シャイニング」と「惑星ソラリス」を足して3で割って、「2001年宇宙の旅」のスパイスをかけたようなTHE王道SFで、今観ても全く色褪せていない。
また、『AKIRA』のパロディ的「最臭兵器」も、自衛隊のような現実的兵力と生物兵器的怪物との闘いという意味では、やはりこちらも「新世紀エヴァンゲリオン」の使徒との闘いを連想させるし、あるいは『シン・ゴジラ』の先行作品の一つですらあると思った。一方で、愚者(バカ)が核兵器級の最終兵器を暴発させて人類を滅亡させる、というような警告的メッセージを持った皮肉が、プーチンが暴走する現代にも響いてくる。
3本目の「大砲の街」は、物語性は薄くなり、アイロニーと表現的な実験性が強い作品だったが、当時の手書きセル画技術の職人的最高峰の作品で、デジタル化した現代ではもう作れないと思う。雰囲気も、仏アニメ映画の『ファンタスティック・プラネット』のような寓話的妖艶さも帯びており、この3種類の絶妙な奇跡的順番・組み合わせによって文学的余韻を残して、纏め上げているようで、やはり素晴らしい作品だと思った。
という意味で、短編集的作品なので『MEMORIES』という作品自体は『AKIRA』級の評価がされていないが、この作品から派生した作品群などの歴史的意義などを考えていくと同等かそれ以上の作品だと思った。
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