るるびっち

去年の夏 突然にのるるびっちのレビュー・感想・評価

去年の夏 突然に(1959年製作の映画)
1.8
テネシー・ウィリアムズの名作だと思うから有難がるが、これがB級ホラーなら結構ゆるい。
キャサリン・ヘップバーンとエリザベス・テイラー、二大女優のバチバチ対決が見ものだが、二人ともヒステリックでどちらが狂人でも違和感はない。だから驚きはない。

精神病院患者のリズが狂っていると見せて、実は彼女を病院に追いやったキャサリン(愛称ケイト)の方がもっと狂っていた。
それが善良おばさんなら落差があって驚くが、ケイトも狂人的なので驚かない。
スキャンダル発言も狂人同士だから、そりゃきわどいこと言うよね~。
意外性が無いのだ。
普通の善良そうな人が、実はヤバかったら驚く。
最初から狂人っぽいのが裏に色々あっても、だろうねとしか思わない。
人間を描いてるらしい戯曲は、ホラーとしては意外性のない三流脚本だ。
もったいぶった会話が続くだけで退屈。
精神病院が陳腐で見世物小屋的なのは、ちゃんと取材してるのか? 昔でも漫画的すぎるだろう(今の漫画の方がリアルか)。

そもそも誰の視点で描かれた話なのか。
モンゴメリー・クリフト演じるロボトミー手術専門の医者が、手術をするかしないかで悩むドラマなら見やすいだろう。
だが違う。単に去年の夏の悲劇の真相を追う形。
果たして、リズとケイトのどちらが正しいのか?
しかし最初からケイトがリズの証言を隠蔽する為に、手術させるのが見え見えだ。
だからリズが混乱して、恐怖を煽るのがあざとく見える。
別にあんた狂ってないやろ? ケイトの陰謀だろ?
どこがスリリングか解らん。精神病院もスキャンダルも、キモいな程度で衝撃はない。
当時は衝撃だったのか?
当時見ても陳腐だと思う。演劇原作だけに仰々しく嘘臭い。

肝心の去年の夏の出来事が、一番嘘臭いので苦笑した。
密林奥地の未開民族なら、もしやあるかも知れないが・・・町の近くでパレードするほど文化的な人々が、幾ら貧困でもそんなことしないだろう。
神社で蛇を食いちぎる蛇女の見世物があるが、それに近いアホらしさで、それを見て絶叫する人いないだろう。
こんなアホ話に必死に絶叫演技して俳優は大変だな、ご苦労さんと思ってしまった。
この最後の衝撃は、真実というより一種のメタファーとして文学的な意味合いを持っている。
そうでないと嘘臭すぎる。
何かの暗喩としてインテリは理解して、実際に驚いた訳ではないと思う。名作の正体はインテリが補完してるだけの、ショボい暴露話なのだ。正体見たり枯れ尾花ではなく、見世物の蛇女って感じ。

他のスキャンダルネタも、今では割と普通のことなので衝撃は無い。
むしろロボトミー手術を平然としている方が衝撃だ。
今見ると、ロボトミー中心で描いた方が興味深い。
医者目線で、リズに手術をするか否か。
健常者が狂人に仕立て上げられる恐怖を描いた方が良かった。
何れにしろ、今ならホラーとしても三流レベル。
『去年の夏、見世物小屋で・・・』って感じのギャグ映画だろう。
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