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アルカトラズからの脱出の教授のレビュー・感想・評価

アルカトラズからの脱出(1979年製作の映画)
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「アメリカン・ニューシネマ」論争みたいなのが、シリアスなのか、娯楽なのか判別できない形でトレンドに上がっている中。
論点がよくわからない状況で、なんとなく引っかかっている。
口出したい気持ちと、そのことの煩わしさの両方に振れていて…という心境で鑑賞。

しかし、本作は概ね「ニューシネマ」的なラインラップからは外れる作品。
しかし映画評論家の町山智浩氏の指摘する「ダーティーハリー」と同じくで「アメリカン・ニューシネマ」的な論法(?)あるいはトーンで時代的空気を反映した映画、という印象。
主演のクリント・イーストウッドの「師匠」的な存在でもあるドン・シーゲル監督の低予算ながらの職人的な演出とショットづくりで「地味で退屈」だけど「面白い」映画になっている。

ストーリーは実にシンプル。
基本的には寡黙。頭が良くて腕っぷしも強いモーリス(クリント・イーストウッド)。
ある意味では完全無欠の「ヒーロー」的な人物像だが、それ以外は描写されない。
そこに囚人仲間の絵描きのドク(ロバーツ・ブロッサム)や、ネズミを飼っているリトマス(フランク・ロンジオ)、図書室勤務のイングリッシュ(ポール・ベンジャミン)との交流が前半。
刑務所生活の日常を淡々と描写しながら、受刑者とはいえ、それぞれが抱える理不尽や、人間の尊厳についてのエピソードを織り交ぜいく。

イングリッシュの人種問題における不平等。ドクにとっての絵を描く行為。作中では小物の荒くれ者でしかないウルフ( ブルース・M・フィッシャー)ですら、惨めさや儚さが滲む。

ドクが自分の指を切断し、あるいはその死を軽視した所長(パトリック・マクグーハン)に憤慨し発作を起こして死んでしまったリトマスを契機に、脱獄までのセットアップはドラマとして見事な盛り上げ。
しかし、本作が奇妙なのは、実際に脱獄を行うクラレンス(ジャック・チボー)とジョン(フレッド・ウォード)の史実では兄弟の2人のことはほとんど描かれない。
対して最終的に脱獄に手こずって失敗するバッツ(ラリー・ハンキン)の身の上を思うとなかなか切ないく、作劇のバランスが謎めいている。

ルックや物語全体のトーンが「アメリカン・ニューシネマ」的な風合いながら、ある意味では低予算映画のB作品的な風合いが痛快なプログラムピクチャーとして、秀逸。
特に多くは語ることはないけれど、面白い映画らしいエモーショナルな映画だと思う。
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