psychedelia

旗本退屈男 謎の幽霊島のpsychedeliaのレビュー・感想・評価

旗本退屈男 謎の幽霊島(1960年製作の映画)
4.0
退屈男シリーズ第二十六作。長崎出島を舞台に異国情緒溢れるレビュー盛り沢山で魅せる好篇。歌謡映画の職人たる佐々木康の真髄をようやく見た気がする。いつもの欠伸がでる座敷舞踊ではない。多分,この頃に普及してきたTVとの差別化なのだろう。鮮やかな照明効果をバックに踊る歌劇団の面々の艶姿は,まるでイタリアのジャッロのそれである。
セロファンを透かした幻燈の幻想的な質感のレビューに心踊れば,浮かぬ気持ちの土気色な背景の雨天に対照の妙を打つ青紫の傘一輪の美しさに息を呑む。軒下で拡げた傘を今にも立て,雨空の下を二人行こうとする木暮実千代と右太衛門のツーショットの画になることといったら。さすがの押し出しの良さである。
シリーズ常連の感もある北大路欣也はやはり殺陣も多め。しかし,過去作の『謎の蛇姫屋敷』や『謎の南蛮太鼓』と比べると格段に上手くなっている。特に後者は本作の約一年前の公開だが,一年もあればやっぱり変わるもんだね。努力ってすごい。逆に丘さとみは多少精彩を欠いた感あり。可憐さと不気味さを併せ持った異国の少女の味が今ひとつ出ていない。こういう役は高千穂ひづるにでも配てないと。
右太衛門の殺陣はシリーズ中でも最高クラスの大暴れ。俯瞰のショットが実に良い。この人は日本舞踊の心得があるから,足捌きが鮮やかで,俯瞰が実に映えるのだ。此の辺り,バストショットが多くなりがちな松田定次演出では見られない一面(全くないわけではないんだが。『大江戸七人衆』など)
佐々木康作品としても退屈男のシリーズとしても最高傑作に類する名品。東映ビデオさんよ,凡作の『謎の蛇姫屋敷』だの『謎の暗殺隊』だのをDVDレンタルする暇があったら本作をさっさとDVD化せんかい。ただでさえ東映ビデオは低品質なんだからさ。大映を見習えよ。
psychedelia

psychedelia