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愛の昼下がりのakrutmのレビュー・感想・評価

愛の昼下がり(1972年製作の映画)
4.0
家庭と職場で完全に別々の人生を送れないかと夢想する男性が、昔の友人の恋人だった女性クロエと再会することで、妄想が現実味を帯びていく状況に戸惑う姿を描いた、「六つの教訓話」シリーズの最終作となるエリック・ロメール監督の恋愛ドラマ映画。

平凡な不倫モノのように見えるストーリーはロメールにしては物足りない感じがしないわけでもないが、不倫そのものはテーマではない。作中で主人公のフレデリックがあれこれと思い巡らしているのは、自分には異なる人生があるのではないか、もっと言うと、ひとりの人が完全に独立した複数の人生を同時に送ることができるのかという、誰でも一度は考える問いであり、これが本作の主題である。フレデリックの人物造型には、この問いを普段から考えているロメール自身が投影されているらしい。そして、自由奔放で無鉄砲な性格の女性クロエの出現によって、頭の中の思考に過ぎなかったことが現実味を帯びていくときの主人公の戸惑いが印象的に描かれている。「六つの教訓話」シリーズの最終作ということもあって、この結末でいいのかは、賛否両論があるみたい。個人的には、そこは問題じゃないと思うが。

本筋とは関係ないが、変な磁気ペンダントを用いて道行く女性のナンパに次々と成功する姿を、フレデリックがカフェに座りながら妄想するシーンが印象的。シリーズ最終作ということもあってか、本シリーズに出演した6名の女優(『モード家の一夜』のランソワーズ・ファビアン、マリー=クリスティーヌ・バロー、『コレクションする女』のアイデ・ポリトフ、『クレールの膝』のベアトリス・ロマン、ローレンス・ドゥ・モナガン、オーロラ・コルニュ)がカメオ出演している。ベアトリス・ロマンだけはナンパに成功しないという描き方は、ロメールと彼女の当時の関係を反映していて面白い。また、『クレールの膝』の中では(クレールという役柄としてそうだろうし、素人だった本人の固さもあるだろう)美人だけれど冷たい印象を与えたローレンス・ドゥ・モナガンが見せるめちゃ可愛らしい笑顔がとても印象に残った。

クロエを演じたズーズーは当時のアイコン的存在で、モデルだけあって本作でも様々なファッションを披露している。エリック・ロメールは以前からズーズーを起用したかったそうであり、『ズーズーの冒険』という作品も企画していたとのこと(結局は未実現)。ズーズーにとっても、彼女の名声をさらに広げた代表作となった。なお、フレデリックの妻を演じたのは、フレデリックを演じたベルナール・ヴェルレーの実世界での妻フランソワーズ・ヴェルレーである。
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