そーた

ヒドゥンのそーたのレビュー・感想・評価

ヒドゥン(1987年製作の映画)
4.0
B級映画の本領

最近やたらと昔に見たB級映画を見返してます。
他に何かあったかなって探してみたら、ありました。

僕の中では隠れた名作。
うん、まさにタイトル通り。

人に寄生する凶悪な異星人を追う二人の刑事を描いたSF作品。

これが本当に面白い。
アイディアとユーモアが非常に上手く結び付いていて、作品の世界観を唯一無二なものにしています。
  
それが窺い知れる冒頭。
異様な雰囲気を漂わせる監視カメラ映像に写っていたのは社会に突如として現れた圧倒的な"異物"でした。

その正体は宿主への寄生を繰り返すエイリアン。

僕らの社会を掻き乱すこの異様な存在が冒頭から無茶苦茶な事をしでかします。

社会の枠組みの中で行われるその悪行の数々は、むしろ僕らが心の暗部で求めてしまっているものなのかもしれません。

だからこそ、社会規範から逸脱したあからさまな悪の存在に対して少なからずの魅力を感じてしまうんです。

そして、寄生し宿主を取り替えていくというスタイルは、
言い換えてみれば好きなものへと自由に姿を変えられるということ。

容姿や性別、種族まで自由自在に変化させるその特殊能力は正直羨ましい。

アクションものってまずは、悪役の魅力に尽きると思います。
それをのっけから見せ付ける手法がこの映画の非常に上手い掴みだと思いました。

さあそこに、満を持してのカイル・マクラクランの登場。
不自然なくらいに人間味のない存在感で淡々と事件を追っていく様子が妙に癖になってしまう。

悪役に勝るとも劣らぬ魅力を放つこの善玉が、
マイケル・ヌーリー演じる刑事といささか調子のズレた掛け合いを見せていく。 

彼らが徐々に信頼し合っていくというバディー・ムービー特有のお約束をしっかり押さえていきながら、
狡猾に逃げる犯人を徐々に追い詰めていきます。

そして中盤。
只ならぬ緊張感漂う雑居ビルの屋上で3人が対峙します。

このシーン。
一番の見所と言ってもよいかもしれない。

どの街にでもありそうな単なる雑居ビルの屋上という無味乾燥な場所で、
人知を越えた出来事が人知れず起きている。

舞台が飾り気のない身近な場所だからこそ、
そこで起きる出来事の異様さが際立っていました。

もしかしたら知らない間に僕の身の回りでもあんな事が起きているのかもしれない。

あの屋上シーンによって刺激された僕らの想像力と、
映画の持つ独特の美的感覚とが相まって、
比類なき世界観が構築される。

説得力を得た荒唐無稽さの中で、
銃を構えるカイル・マクラクランのその出で立ちがとにかく様になっていたのは、
何よりもこの映画の本領なんだと思います。

冒頭から屋上までのシーンで世界観を構築してみせ、
そこからラストまででその世界観を拡大させる。

その過程でエスカレートするあからさまな非現実さは僕たちに一種のカタルシスをもたらし、
そしてそれこそがこの映画で随所に見られる独創性溢れる創意工夫の賜物なんだと思います。

空想から作りあげられたSFという作り話が、
見るものの想像力に働きかける。

その想像力というものが人間の持つ最大の武器なのであれば、
それを映画なりに思う存分刺激してくれたこの映画。

B級映画の醍醐味を存分に味わえる良作です。

そうそう、
一瞬だけ登場するダニー・トレホ。
これ、隠れた名シーン。

うん。
またまた、タイトル通り。
そーた

そーた