毛玉

サムサッカーの毛玉のレビュー・感想・評価

サムサッカー(2005年製作の映画)
4.2
やっさしい…。
暖かいブランケットのような映画でした。

来年から大学生になるという主人公の男子は、小学生までに多くが卒業する「親指を吸う」という行動がやめられずにいる。家庭では結果を重んじるプライド高めの父から指を吸うクセを嫌がられ、自信を喪失し、優しい母にも反発してしまう。
そんな時、主人公はADHDと診断され、精神安定剤を飲み始める。それによって自信を得た主人公は、自信と成功を体験していくが…。


思春期の悩みや大人の心の傷などを優しく掬い出して、「君は大丈夫だ」とハグをしてくれるマイク・ミルズ映画の中でも、本作は1番わかりやすい気がしました。
なぜなら、主人公が塞ぎ込んでいる様子を幼児的行動の指を吸う行動や彼の寝方というアクションで見せてくれるからです。他の彼の映画でもアクションによる変化の見せ方はありますが、こんなに直接的な表現ではありませんでした。
また、彼の映画のラストは、結果を明言せずとも伝わる映像的な演出でこちらに主人公たちの変化を感じとらせれてくれることが多いですが、本作はドクターのキアヌ・リーブスがわかりやすい言葉で背中を押してくれていました。
彼は終始最高でした。医者なのに診察しながらタバコ吸うし。カッコいいから何でもいいんですけどね。

主人公は終始、自分の指を吸う癖を「直したい」と言います。周りの大人も「直せ」と言います。「あなたは病気です」と診断されてしまったりします。そんな彼のことを、無条件の愛で包んでいた「母」(実は父も)、フラットに見ていた「弟」、自分自身にも悩みながら付き合ってくれる「ドクター」、という彼らがいるのだから、主人公はそのまんまでいいのに、と思えました。

現代では物事が細分化されて、隅々までカテゴライズされているので、どんなことにも名前がついています。どんなに健康な人でも、あらゆる病院のあらゆる診療科に行けば、ひとつは病気を診断されるでしょう。僕だって、ADHDかもしれませんし、HSPかもしれません。
診断されて名前をつけられて楽になることもあるでしょうが、それをひっくるめて自分自身でいることと、その自分を愛してくれる人がいることの幸せだけは忘れないでいなければなと思いました。

マイク・ミルズのセラピー。本作もほぐされました。
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