るるびっち

喝采のるるびっちのレビュー・感想・評価

喝采(1929年製作の映画)
4.3
観客の感情をコントロールするのが上手い!
最近の映画はストーリーは巧妙だが、観客の感情をコントロールする点においては、古典映画の方が巧みではないかと思った。

踊り子の母を持つ娘がヒロイン。
母親がショービジネスから遠ざけようと修道院に娘を預ける。
大人になり母親の元へ戻る、穢れを知らない娘。
しかし母親の側には踊り子を食い物にするクズがいる。
母の側にいる男も、母に寄生するダニだった。
このダニ男が老いた踊り子の母から、ピチピチ美人の娘に乗り換えようとするのだ。
穢れ知らずの娘は、本能的にダニ男と反発する。
彼女はイケメン水兵と知り合い、彼が彼女を救い出す幸福な未来が見える。フラグが立っているのだ。
この辺のコントロールが上手い。

勿論、ショービジネスが全て悪いわけでも、悪人だらけなわけでもないだろう。これは一つの寓話である。
ここでは踊り子にたかる男は、悪人に描かれている。
水戸黄門の悪代官のように解り易い構造のお陰で、ヒロインの人生の選択に注意が向く。
観客はヒロインが、幸福な方に進んでくれれば良いと願う。
ところがそうはならない。

皮肉にも、悪人のせいで彼女が転落するのではない。
愛し合い、思い合う母親との関係が不幸を招く。
母親を見捨てられない娘は、水兵に愛想尽かしをする。
観客としては、みすみす彼女が不幸の道を選ぶのがもどかしい。
更に娘は、本当はショービジネスが大嫌いなのに「スターになるチャンスなの」と嘘を言うのが切ない。
もどかしさと切なさで、かき乱されるのだ。
その後の展開も見事で、最後の1分いや30秒位の捻りとポスターを映す演出が泣かせる。

愛想尽かしもラストシーンも、共通しているのは全てを解っているのは観客だけ。登場人物は事実の一部しか知らない。
そのもどかしさが、観客の感情を大きくうねらせるのだと思う。

先の見えないストーリーが喜ばれる風潮にあるが、観客には見えているが、登場人物には見えていない方が観客の感情がかき乱されるのではないか。「志村後ろ後ろ!!」みたいなものだww
こうした観客の感情をコントロールする技を、ストーリー云々以前に今の映画人は古典名作から学ぶべきではないだろうか。
るるびっち

るるびっち