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パプリカのKZKのネタバレレビュー・内容・結末

パプリカ(2006年製作の映画)
4.2

このレビューはネタバレを含みます

・前から気になりつつも敬遠していた作品。観たら一発でハマってしまい、三回連続で観てしまった。
・以下、誤りも多いかもしれないが自分なりの考察をメモ。

・氷室について。氷室は女装癖のある同性愛者。自室には幼い時に撮ったであろう赤い着物を着た日本人形のような自分の写真が飾られている。夢の中での氷室は女の子の人形の姿で現れ、遊園地では赤い着物姿で落ちてくる。彼の部屋にはゲイ向けのエロ本が置かれており、そんな彼のアイドルが同僚の小山内。氷室の夢の中には裸の小山内の巨大な像が建っており、氷室にとって小山内が特別な存在であることが分かる。
・理事長の手先である小山内は、氷室と寝ることで氷室に3機のDCミニを盗み出させる。流石に同性愛の経験がない男が急に体を使って氷室を誘惑するとは思えないので、恐らく、理事長と小山内は肉体関係にあったと思われる。(理事長の部屋で、理事長と小山内はお揃いの真っ白な寝間着を着ている。)

・小山内について。小山内は夢の中で「青い蝶」の姿で現れる。氷室の部屋で敦子は氷室の夢の中に入っていくが、氷室=日本人形の側には青い蝶が飛んでいる。また、粉川の夢にパレードが入ってくるシーンでも青い蝶が一緒に乱入してくる。青い蝶がいるシーンは小山内が夢に介在しているシーンといえる。青い蝶となった小山内は、パプリカを捕まえ、自分自身の夢の中へと連れていく。彼の夢の世界(部屋)は蝶の標本に囲まれており、彼自身は真っ青なシャツを着ている。標本となり磔にされた蝶は、理事長に支配され逃れることの出来ない彼自身を表していると言える。
・小山内のカラーが「青」とすると、理事長のカラーは「緑」。生命力溢れる緑に囲まれる理事長は常に「緑色のネクタイ」をしている。一方、小山内は「青とも緑ともとれる曖昧な色のネクタイ」をしている。これは、小山内が自分自身のカラーである「青」を保ちつつも、理事長による支配を示す「緑」に染まっていることを示しているものと思われる。一方、夢の中でパプリカがスフィンクス、小山内がオイディプスとなるシーンでは、パプリカから「理事長に支配されたあなたには。オイディプスがとってもお似合いよ。」と言われるが、その際、小山内は理事長のカラーである緑色の布を身にまとっている。これは、「運命に逆らうことの出来なかったオイディプス」を引き合いに、「理事長に逆らえず意のままになる小山内」を示している。※ギリシャ神話の中でオイディプスは、「母と交わり、父を殺すだろう」という神託を受け、その運命から逃れようとするが、結局はその神託のとおりになってしまう。強大な力(運命)から逃れられなかった男。
・パプリカが夢の中の理事長宅で逃げた先は、「オイディプスとスフィンクス」の絵画が何種類も掛けられた部屋だった。しかし、「オイディプスとスフィンクス」の絵画はこのシーンより前にも登場している。それは「粉川が敦子&時田と初めて会った応接室」であり、粉川と敦子の後ろにはこの絵画が掛けられている。これは、ヒッチコックの映画『サイコ』で「荒野」の絵画が飾ってある部屋が映った後に、主人公がその絵画と似た荒野に行ったのと同じように、将来に起こることの予兆、暗示を意図しているものと思われる。つまり、「オイディプスとスフィンクス」の絵画のある応接室に来た敦子は、その後に夢の中でパプリカの姿をした状態で同じような「オイディプスとスフィンクス」の絵画のある部屋へ行き、さらにはその絵の中に入り、スフィンクスとしてオイディプスと戦うことになる、ということが予告されていることになる。

・粉川について。粉川のトラウマ克服がこの映画のストーリー上、一つの柱になっている。彼は「不安神経症」を治すために夢分析をパプリカに依頼しているが、彼の見る夢はいずれも有名な映画のワンシーンばかり。(地上最大のショウ、ターザン、007「ロシアより愛をこめて」、ローマの休日)ただ、夢の最後のシーンは彼が今抱えている殺人現場のホテルの廊下となり、犯人らしき人物を追おうとすると夢から醒めてしまう。映画の夢ばかりなのにもかかわらず、粉川は「映画」は好きではないと語る。
・ストーリーが進むにつれて彼の過去が分かってくる。彼は17歳の時に自主制作映画を親友と作っており、「一緒に映画の道に進もう」と誘われるも自信がなく、映画の制作途中で投げ出し、手を引いてしまう。一方、親友はそのまま映画の道を志すも病に倒れ、粉川に連絡をくれないまま亡くなってしまった。
・ここからは考察となってしまうが、粉川にとっては自分の分身ともいえる相棒を裏切ってしまったことが強いトラウマになり、これまでその記憶を深く抑圧して生きていたのだと思う。彼と相棒が作っていた映画はラストシーン手前、逃げる犯人役の相棒を主人公の刑事役の粉川が追い詰め、ピストルを向けるシーンまでしか撮られておらず、その先は放棄されてしまった。そのため、夢の中で相棒は「続きはどうするんだよ」と粉川に語りかけてくる。粉川は思い出したくない記憶、トラウマとして相棒のことも映画のことも無意識のうちに忘れているが、抑圧された無意識の中では「映画の続き」が常に引っかかっている。その結果、彼は無意識のうちに作りかけの映画で自分が演じていた「刑事」を職業として選んだ上に、映画の中でその刑事がつけていた「赤いネクタイ」を必ずつけるようになる。(粉川は本作品の中で「赤色のネクタイ」しかしていない。彼は「親友」のことも「自主制作映画」のことも忘れていたはずなのに、親友が最後に言うとおり、「俺たちの映画を地で行く」ような人生を送っている。)
・粉川にとって「赤色」は「作りかけの映画」=「トラウマ」を思い出させる色といえる。そんな粉川は、氷室の飛び降り後に研究所へ行った際、所長が言った「学生の時が懐かしいよ。お前と将来の夢を語り合っていた頃がな。」というセリフがトリガーとなり、「学生」の頃のトラウマがよみがえりかける。彼が研究所を出て車を運転していると、周囲の車の「赤色」のテールランプがトラウマを想起させる。さらに、「赤」信号に捕まると、彼は胸を押さえて苦しそうに周りを見る。彼が周りを見るとそこには次のものがある。「赤色の車」、「赤いボーダーの服を来た子供」、「赤い文字の広告」、「R-170と書かれたプレート」(もう一つのトラウマトリガーである「17」という数字が入っている。)、「赤いヘルメットをした2人乗りのバイク」、「7月14日公開の『夢見る子供たち』という映画の広告看板」(「映画」自体がトラウマトリガーである上、7/14という数字を入れ替えると「17」が入っている。)これらの「過去を想起させる多くのキー」(赤色、17、映画)がいくつも重なったことで、抑圧していた過去の記憶が解放され、「続きはどうするんだよ」という親友の言葉が聞こえると同時に粉川は意識を失う。この直後、粉川は冒頭と同じ夢を見るが、冒頭とは異なり、「赤色だけがとても強調されている」上に、「映画の製作途中を思わせるセリフ」が出てくるようになる。(「イマジナリーライン超えたよ」のように)
・粉川はその後、バーにてバーテンと話をする中で、「17歳の頃に親友と映画を撮っていたこと」「その映画を作りかけで放棄した上、親友は死んでしまったこと」を完全に思い出す。ここでのバーテンはおそらく精神科医フロイトが言うところの「『意識の部屋』と『無意識の部屋』の敷居にいる番人」ではないかと思う。つまり、粉川の頭の中では親友の死に関する話は全て「無意識の部屋」に詰め込まれ、抑圧されてきたが、バーテン=番人と話すことで「無意識の部屋」から「意識の部屋」へと移され、無意識下にあったトラウマが意識下されたと言える。(本作品の監督が、夢判断の第一人者であるフロイトについて知っていただけでなく、彼が主張した説について十分理解していたのは間違いない。フロイトが提唱した「オイディプス・コンプレックス」についてよく理解していたからこそ、「オイディプス」の絵画を作品中に何度も使ったとしか思えない。)
・閉じ込めてきた過去を思い出した粉川は、夢の中で逃げる小山内に向かって「今度は完成させてやる。」と言い、ピストルを撃つ。小山内を撃ったことでこれまで未完成だった映画は完結し、親友も拍手を送り、粉川はトラウマを克服することになる。トラウマを克服した彼はラストシーンで一人で映画を見に行く。
・これまで記憶を封印し、安定していた粉川がどうして急に「不安神経症」になったのか。彼自身は「直近で起きた殺人事件を解決できていないこと」が原因と考えていたようだが、そうではない。おそらく、殺人現場の廊下に敷いてあった「赤いカーペット」が原因ではないだろうか。つまり、殺人事件を解決するために何度も「殺害現場の写真」=「赤いカーペットの写真」を見ていた粉川は、その「赤色」によって抑圧していた記憶が戻り始めたため、精神が不安定になった上に、不思議な夢を見るようになったのではないか。

以上だが、今後観返すことでもっと深く解釈できるかと思うと、何度も観かえしたい作品である。今敏監督が亡くなられてしまったことが本当に残念で仕方ない。
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