SANKOU

ねらわれた学園のSANKOUのネタバレレビュー・内容・結末

ねらわれた学園(1981年製作の映画)
4.2

このレビューはネタバレを含みます

松任谷由実の『守ってあげたい』の曲に乗せて始まる素敵なSFファンタジー、かと思えばタイトルが表示されると何やらサスペンス風の音楽が。画面が切り替わると歩道橋で女子中学生のスカートの中を覗くスケベな小学生たちの姿。
ドタバタコメディからファンタジー、スプラッタホラー風のものまで、あらゆるジャンルの作品を手掛ける大林宣彦監督らしい世界観が満載の映画だ。
不思議な能力を手にしてしまった少女が、学園を狙う正体不明の敵と対峙する物語で、ファンタジー要素がとても強いが甘酸っぱい青春映画でもある。
由香を演じる薬師丸ひろ子の瑞々しさと、これが映画デビュー作となる耕児役の高柳良一の初々しさが見事にはまっている。
耕児の家庭教師役を頼まれた由香が、剣道の練習のために耕児を部屋から脱出させるシーンは観ていてほっこりした。
初めは平和な学園生活が描かれるが、少しずつ不穏な影が忍び寄る。能力に目覚めた由香を同士とあおぐ謎の男の存在。そして現れる転校生みちるの目的とは。
これはファンタジーであり青春映画でもあるが、社会に対して痛烈なメッセージを持った作品でもある。
みちるは生徒会長に立候補し、自由と好き放題を履き違えている生徒たちに警鐘を鳴らす。規律でガチガチに固められて息苦しい生活を強いられていたのが戦前からの教育で、この時代でも今よりまだまだ校則が厳しかったはずだ。
そこから少しずつ先代の人たちが自由を勝ち取ってきたわけだが、確かに自由は一歩間違えると勝手気ままな行動に変わってしまう。
本当に大切な自由とは、基盤がしっかりあってそれに対して責任ある行動を取れることが前提にあると思う。
確かにみちるが話す内容はもっともなことだと思った。彼女は正論を投げ掛け新しい秩序を作り出そうと生徒たちに呼び掛ける。実はもっともらしい正論を掲げてルールを作ろうとする人間は恐ろしい。
みちるは各クラスの委員に校内をパトロールするように要望を出す。なぜか由香以外の生徒は彼女に逆らえない。
こうして一部の生徒が他の生徒を監視するシステムが出来上がる。教師としては風紀を乱す生徒が淘汰され、クラスの成績も伸びていくので願ったり叶ったりだ。
しかし山形という体育教師だけは、真っ向からこの事態に反対する。生徒の中で監視するものと監視されるものに分けるということは、皆がそれぞれ疑心暗鬼にかられることになる。
そしてこれがどういう状況に似ているかというと戦争が起こる時であると彼は言う。
確かに洗脳されたようにパトロールをする生徒たちが、他の規則を破った生徒を拘束したり危害を加える姿は戦時中の社会を思わせるようで不気味だった。
そして支配者に都合の悪い人間は始末されていく。交通事故にあった山形を筆頭に、由香や耕児の周りでも続々と謎の事故によって怪我人が増えていく。
一方みちるや謎の男の力によって取り込まれた生徒たちは、大人しく従順になり、成績も上がっていく。大人たちからすれば、とても有難いことで反対する理由がない。
これも戦争が起これば経済的にも豊かになり、国民に利益をもたらすと唄う戦争指導者の姿と重なる。
謎の男の目的は強いものが弱いものを淘汰する完璧な世界を作ることだ。だから彼は力を手にした由香を自分の元に引き込もうとする。しかし彼女は男の望む世界を否定する。
ひとりひとりは弱くても、人間は助け合って生きていくことが出来る生き物だ。耕児の助けもあって由香は男と対決し勝利する。峰岸徹演じる男のマント姿があまりにもぶっ飛んでいて、ネグリジェ姿で闘う由香の姿と合わせてかなりシュールなシーンになっていた。
再び日常が戻ると、由香から不思議な力は消えてしまった。彼女は「特別な力がいらないということは世の中が平和だということだね」と口にした言葉がとても深い意味を持っているように感じた。
シーンや演出によっては肌に合わない部分もあったし、好き嫌いが分かれそうな作品ではあるが、作品に込められたメッセージがしっかりとしているので最後まで画面に引き込まれた。
毎度作品のジャンルは違えど、大林監督の作品はいい意味でどれも似たような印象を受ける。作品の中に監督の持つ哲学がしっかりと生きているからだなと感じた。
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