みかんぼうや

母なる証明のみかんぼうやのレビュー・感想・評価

母なる証明(2009年製作の映画)
3.9
【母と息子の感動ヒューマンドラマと思いきや、終盤の怒涛の展開と壮絶なラストに唸らされる、ポン・ジュノ作品らしい衝撃的ミステリー】

ポン・ジュノ監督の作品は「殺人の追憶」「パラサイト」に続いて3作目。中盤までは先の2作に比べると、なんとなく粗さも目立つ展開のように感じましたが、観終わってみると、後半の畳みかけるような展開にグイグイ引き込まれ、やはりその演出と展開に「うわっ!」と唸らされるさすがの凄みがある作品でした。

実は観始めくらいまでは、母と息子の親子愛の感動ヒューマンドラマだと思っていました(知的障害で殺人に関与したとして逮捕される設定が、なんとなく私がかなり苦手だった「七番房の奇跡」と似ていたので)。もちろん、母の息子に対する愛もテーマではあるのですが、作品全体の印象としてはヒューマンドラマというよりかなりミステリー色が強い作品だと思います。

美しい稲畑の中で一人奇妙な踊りをする主人公である母親が映し出されるオープニングから何かただならぬ雰囲気が漂い(このオープニングシーンも、後の展開に繋がっていくわけですが)、このなんとも言えぬ“奇怪”な様子が既にポン・ジュノ監督らしさを感じさせます。

知的障害を持ち女子高生殺害の疑いで捕まってしまった息子の無実を証明するために真犯人捜しを続けるこの母親が、息子の無実を信じ探偵のように動き回る姿が作品の4分の3くらいまで続きます。そこには、母親の「息子は絶対に犯人ではない」と信じる執念がありますが、この一連の流れが「七番房の奇跡」のように感動ポルノ的な作りではなく、途中で怪しい人物や犯人捜しのヒントが色々と浮上するいかにもミステリー的な展開です。

ただ、ミステリー作品として観ると、中盤くらいからやや後付けのご都合主義的な展開で、なんとなく「ポン・ジュノ監督にしては粗い感じがするな・・・」と思い、若干作品に対するワクワク感や熱量が落ち中だるみしかけていたところからの怒涛のラスト30分の壮絶な展開!全てがネタバレになりそうなので、あまり細かくは書けませんが、「パラサイト」でも見られる猜疑心、焦り、怒り、執念、家族愛というあらゆる感情が最高潮に絡み合い起きる衝撃的な展開と結末はやはりかなり見応えがあります。

あのバス停での母親の表情は、驚きか、恐怖か、蘇る罪悪感か・・・最後まで観る者の心に爪痕を刻み込むような作品でした。
みかんぼうや

みかんぼうや