ボブおじさん

母なる証明のボブおじさんのレビュー・感想・評価

母なる証明(2009年製作の映画)
4.3
「パラサイト 半地下の家族」でアジア人初のアカデミー賞作品賞を獲得した韓国の鬼才ポン・ジュノ監督による傑作サスペンス。

「殺人の追憶」で衝撃を受け、続く「グエムル 漢江の怪物」が韓国で同国映画史上No.1(当時)の大ヒットを記録したポン・ジュノ監督の才能が、本物であることを確信した作品。

ある殺人事件で容疑者になった息子の無実を信じるヒロイン=母親の愛情の深さと、彼女を待ち受ける意外な真実。ジャンルとしてはヒューマンミステリーなのだろうが、ポン・ジュノは愛情が深すぎる母親は怪物に等しいという独自の視点でヒロインが地獄に到達するまで掘り下げてみせた。見ようによってた、これはホラー映画よりも恐ろしい。パラサイトの時にも言われたが、この監督の作品をジャンル分けすることは意味がない。

平和な地方の町で女子高校生が何者かに殺される事件が起き、漢方薬店で働く母親の息子であり、知的障害がある青年トジュンが事件の容疑者として逮捕される。ろくな捜査もしない警察や頼りない弁護士に痺れをきらせた母親は、愛する息子の無実を信じ、独自に事件の真相を究明すべく行動を開始する。

劇中でキム・べジャが演じる母親は、名前を呼ばれることがない。息子からも他人からも〝お母さん〟と呼ばれているので、実際の名前はわからない。

彼女は、自らも1人の人間としてよりも〝息子の母親〟として生きていたのかもしれない。その中には、息子に無償の愛を与える聖母の姿と血を流しながらも子を守る獣の姿が同居していた。

韓流ブームの立役者であり、当時日本でアイドル的人気があったウォンビンの兵役後の復帰作。彼の役の振り幅にも驚かされたが、韓国で〝国民の母〟とも呼ばれたキム・べジャの演技はまさに圧倒的だ。

映画の中には、その後を予見させる伏線が所々に見受けられるが、1度見ただけでは見逃してしまう。特に最初は訳がわからなく奇妙に見えたオープニングシーンを、全て見終わった後に改めて見ると思わずゾッとしてしまう。

母親とは何か、愛とは何か、無垢で純真な瞳は何を見たのだろうか?


公開時に劇場で鑑賞した映画をDVDにて再視聴。