Jeffrey

母なる証明のJeffreyのレビュー・感想・評価

母なる証明(2009年製作の映画)
4.5

「母なる証明」(モノクロ版)

冒頭、香草漂う致景。一人の女が奇妙に踊る。勁草と上枯れの原風景、漢方と針の記憶忘れ、夜光と余光、初明かりの女子生徒の死体発見、警察、弁護士、容疑者。今、 冥邈の中を彷徨う母の決断を描く…本作は 2009年にポン・ジュノ監督が描いたヒューマン・ミステリー映画で、彼のキャリア史上最も個人的に好きな1本である。この度BDボックスが発売され、その中に本邦初公開のモノクロ版が収録されていたので白黒版を初めて鑑賞したが大傑作。やはり素晴らしい作品だ。ただ、BDのモノクロ版は英語字幕と日本語字幕が同時に流れる為、少しばかり鬱陶しい気分になる。

もう冒頭のキム・ヘジャ演じる母が草原で踊るモノクロのファースト・ショットだけで大満足する美しさだ。他にもたくさんある。例えばゴルフ場の池にゴルフクラブが落っこちてそれを夜な夜な拾う際の水の波光が何とも言えない美しさだ。また、知的に問題がある主人公の青年が立ちションベンしているときに母親に飲み薬を茶碗で飲まされているときのショットの構図美が素晴らしく、またモノクロのコントラストがたまらない。

警察署で取り調べを受けている息子が拇印を押してしまい、母親が面会に来てその後に刑事が雨の中外に出る場面のモノクロの美しさ際立っている。今思えば、「殺人の追憶」も現場検証をするシーンで多くの警察や野次馬がその場にいたがこの「母なる証明」でも空気人形を使っての殺人現場を行う場面でも同じく大量のエキストラを動員している。母親が息子の悪友であるジンテの家に向かう際の山々のロングショットの美しさも際立つ。

特にその悪友のボロ家での一連の流れは圧倒的な単色画のその濃淡で映像を現す様式を完璧にしている。やはり雨のシーンもカラーバージョンとはやはり天と地の差である。それと終盤で母親が〇〇するときに建物を炎上させてしまうシーンの蠱惑さもモノクロ独特のコントラストが美しい。それをさらにロングショットでとらえる場面なども最高だ。前から言っているが、自分は建物が炎上しているショットが大好きなのだ。他にも色々とモノクロになって魅力を増した場面はあるが、ネタバレになってしまうのでここら辺で止めておく。

改めて見返してみて気づいたことがあるのだが、頭上ショットが多いなと感じた。それとイ・チャンドンの「オアシス」でもそうだったから、出所した人間は潔白になる様にと言うことでまっ白な豆腐を食べるしきたりがあるらしい。この作品でも主人公の青年がケーキに見立てられた豆腐を車の中で食べていた。

正直、一般的にもポン・ジュノ監督作品の中ではやはり「殺人の追憶」が最高傑作だと感じる人も多くいると思う。もちろん俺もその1人だが、この作品の冒頭とラスト(シルエット)の強烈な余韻がどうしても勝ってしまう。「殺人の追憶」のラストの余韻もとんでもないが、「パラサイト」だって余韻が素晴らしかった。この監督は余韻の演出がとんでもなく素晴らしいと思う。



今回このモノクロバージョンはクライマックス数分間はカラーになる。この作品を既に見ている人はわかると思うが、母親が最後バスに乗って針を刺すシークエンスがカラーに変わる。母を主題にした映画の中では相当好きな部類に入る1本だ。韓国映画としても相当好きだ。最後にこの作品は単色で制作された図画(モノクロ)で是非お勧めする。正にあっぱれ。





‪「母なる証明」‬

‪冒頭、野趣で踊る母。手を口元に、音楽が流れ、次の瞬間、漢方薬屋を営む母のクローズアップ。息子が轢逃げされ、ゴルフ場、復讐、女子高生の遺体、殺人、炎上、今母が真相を探る…本作はポン・ジュノが二〇〇九年に監督したサスペンス映画で個人的には彼の最高傑作だと思ってる。物語は知的障害のある息子トジュンが女子高生殺害の容疑で捕まる。必死に無実と顔見知りの警官に母は訴えるも虚しくもう終わった事件だと言われる。母は弁護士を雇うもろくに働かず、自ら息子の無実の証拠を搔き集める。だが解決したかに見えた事件も再捜査を開始。一方、母は受け入れ難い事実をとある男に聞かされ絶望する。話は次から次へと展開し、ラストを迎える。これを初見したのは今から七年前位で某レンタル店でふとプロットが気になり借りて観た。冒頭から引き込まれ一体彼女(母)に何が起きたのか…それから知らされる出だしの謎めいた踊りに魅了された。また常夏漂う愉快な音楽と緊迫するサスペンスフルなサントラが画期的な迄に本作を高みへと押し上げる。息子が立ちションするシーンで母が薬を飲まし、バスに息子が乗ってバス停に一人残された母の姿を遠目に捉えた画だけで感動する。またラストバスの中で踊る母の姿はどんなミュージカル映画より印象を残し、このワンシーンで本作のファンになる。なんと言っても母役のキム・ヘジャの芝居は凄まじすぎる。近年稀に見る本物の芝居をした。また息子役のウォンビンも難しい役所をこなしていて良かった。確か兵役後の初主演映画でもある彼を初めて知ったのも本作、後にアジョシも直ぐに観た。あのミネラルウォーターを溢し寝ているジンテ(息子の友達)の指に当たるか当たらないかの緊張感ある演出も良いし、ミステリー要素も中盤から濃くなり見入る。また五歳の頃の記憶が蘇って新事実が判明する場面や事件の真相、丸焼けした場所に置き忘れにした品物、犯人とされた新たな容疑者の容姿、何故死体を屋上に運んだのか、何故土に埋めず敢えて見える様な場所に遺棄したか…畳み掛ける謎や衝撃が途切れ無く続く。この映画の帰結が何とも哀しく、母の虚ろな表情が忘れ難く、そして言わば母の武器である針を自らに打ち、浄化するあの夕日に照らされるバス内のシークエンス…凄い映画を観た!と思わされる傑作だ。‬ ‪この監督に静寂な町で起きる殺人事件を撮らした最高だ。‬
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