赤ちゃんパンダ

の・ようなものの赤ちゃんパンダのレビュー・感想・評価

の・ようなもの(1981年製作の映画)
5.0
誰がなんと言おうったって、好きな映画ってのがあるんだヨ!
そんな映画のひとつであります、森田芳光『の・ようなもの』。

見たのは2012年だったと思います。
二本立ての一本でした。
もう一本は、『マル本 噂のストリッパー』。ピンク映画ですね。
今は亡き銀座シネパトスで見ました。
銀座シネパトスって今はないんですね。
新橋シネマよろしく、電車の音の聞こえる映画館でした。
そして新橋シネマも今はもうありません。

この文章を書いている今は2017年で、5年前に見た映画です。5年の間、一度も見かえしていません。
正直なところ、詳細はあんまり覚えていません。
それでもなにか、映画の、特別なある時間に遭遇した気がして、とても胸が高鳴ったことだけは覚えています。


『の・ようなもの』の中で、とてもとても好きなシーンのひとつである、主人公の志ん魚が終電後、振られてしまった彼女のうちから歩いて帰るシーンの独白を、ここに載せておきます。
(私がいつだって、こうしてスマートフォンから見れるようにね!)

ここのシーンのこの志ん魚の独白が、そしてスクリーンを流れる街が、志ん魚の足音が、好き過ぎて、この独白をこうして読むだけでもちょっと泣けてきてしまいます。
ああ、本当に、国際劇場の踊り子は、今頃どうしているだろうか?

☆ ☆ ☆

怪物のような荒川鉄橋 こぼれないように車が走るのが見えるぞ しんとと しんとと
トランペットの練習が聞こえない不気味な静けさ
深夜料金の光るバッジをつけたタクシーが北千住方面にダッシュする
その反対方面42.195kmにおれのアパート しんとと しんとと
東武と京成を乗せた綾瀬川を渡り お化けが出そうな鐘ヶ淵へ向かい 圓徳寺を左へ折れようとする
昔はここらへんでカネボウ美人がつくられたという しんとと しんとと
まつり提灯に誘われ抜け道を入ると 神様は四畳半の狭さの中であしたを待つ
鐘ヶ淵の駅前通りを歩行者一名 逆に目立つのかビニールの花が歓迎している
水戸街道に入ると昔ながらの商店が蚊取線香の匂いを立ててディスプレイをしている
地下足袋一ダース 三八〇円 自慢焼一個 六〇円 さくさくしたソフトクリーム一個 百円
ひと息いれたい しんとと しんとと
三十過ぎの芸者衆と四十過ぎの浮気男が向島の屋根の下で寝ている
もうそろそろ夜が明ける
夏の朝は志ん菜が言うように早い しんとと しんとと
カラスがカアカア飛んでいる 吉原上空に向かうのか 明烏
聞いていますか? しんしょう師匠
吾妻橋のビール工場まであとひと息
リバーサイドのジョギングコースをなぜか歩く しんとと しんとと
隅田川の風が吹いてきた 眠そうにブレーキをかけた東武線が隅田川を渡る
松屋もビール工場も世界の終わりのように静かだ
吾妻橋を渡ると仁丹塔が見えてきた
浅草雷門に入る
観音さま! 志ん魚が朝一番でやってまいりました
人形焼の匂いのない仲見世はさびしい
思い出やしきに足は向く 今頃どうしているだろう
国際劇場の踊り子たちは今頃どうしているだろう しんとと しんとと
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