わたしの知らない父の顔
世界の憂いを纏った夜の顔をのぞかせるい
つもの街で その闇に同化し物思いにふける
父の横顔はどこか苦しそうに艶めいていた。
幼い"女の勘"がほんとうは触れてはいけな
い領域を脅かし 彼女の知らないもうひとつ
の世界に存在する大人たちの見たことのな
い表情が 彼女を繊細な殻にそっと閉じ込める。
共鳴する振り子の振り幅はまるで少女や父
の 取り戻せない残酷な時間の移ろいと解消
することのない心の靄のよう。
大人に近づく彼女にも あのときの父の苦し
みをいつか理解する日がくるのだろうか。
ステッキの悲しいリズムは暗闇で息を潜め
る少女の心に呼応し 成長した彼女の胸の内
でいつまでも響き続ける
