スギノイチ

東京ド真ン中のスギノイチのレビュー・感想・評価

東京ド真ン中(1974年製作の映画)
2.9
山田洋次や森崎東はかつて野村芳太郎の助監をやっていたわけだから、本作はお師匠様自ら『男はつらいよ』を疑似演出したということになる。
きっとこれは鮮やかなお手本が観られる…と期待したが、実際観てみるとイマイチな出来だった。

加東大介や太宰久雄といった下町の人間たちは生き生きとしているというより下品かつ無神経に描かれ、昭和喜劇の悪いところが炸裂している。
ポリコレよろしく昭和の価値観を現代の倫理で断罪するつもりはない。
単純にお笑いとしてノイズが多すぎて笑えない。

宍戸錠だって日活時代はコメディ調の映画にも出ていたわけで、必ずしも喜劇に不向きということはないだろうが、どうもこういう役に似合ってない。
ただ単細胞で純情な男というだけで、それ以上の面白みがない。
とはいえ、渥美清にしても森崎東の『喜劇 女は度胸』や『喜劇 男は愛嬌』では狂気や怪物性が強く出ていたし、山田洋次との調和があってこその寅さん造形だったんだろう。
その点、本作はその両方が欠けているわけなので、表面だけ寅さんにしたところで面白くならないのは当然かも知れない。

その渥美清だが、この映画の終盤にゲスト出演している。
森田健作の「叔父」という体でお馴染みのテーマと共に登場し、”寅のアリア”よろしく長い口上を述べるのだが、正直ここしか面白くない。
しかも、ここのシーンのせいで宍戸錠の存在感はいよいよ風前の灯となり、構成としては失敗でしかない。
ただ興味深いのは、ここでの渥美清と森田健作の関係性は「寅さんと博」のパロディを狙っておきながら、結果この「ぼくの叔父さん」という構図が後年の「寅さんと満男」の関係を予見していることだ。
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