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ミニヴァー夫人のodyssのレビュー・感想・評価

ミニヴァー夫人(1942年製作の映画)
3.5
【プロパガンダ映画だが、プロパガンダ臭くはない】

BS録画にて。
第二次世界大戦中に英国を舞台として作られた戦意高揚映画です。モノクロ。

始まりは大戦勃発直前の1939年夏。
贅沢な帽子を購入してしまった夫人と、パンクを機として新車を購入してしまった夫とのさりげないやりとりが、英国中産階級の価値観をそれとなく示していて、たくみ。
娘がピアノ教師にピアノを教わっていたり、複数の女中が雇われているところも、中産階級らしい。

やがて大学に通う長男が帰省して、大学生らしい理論を振りまわしますが、たままた訪ねてきた元地主である老婦人の孫娘と議論になる。しかしそれをきっかけに二人は恋に……

というわけで、戦意高揚映画ではあるけれど、急がず騒がず、じっくりした展開になっています。
とはいえ、ドイツとの戦争が始まると長男は空軍に志願しますし、教会では牧師が戦意を高めるような発言をしている。
牧師は最後近くでも、ドイツの空爆で半壊した教会の中で住民に向かって徹底的に抗戦するよう呼びかけています。
キリスト教だから「右のほおを撃たれたら左のほおも」なんて説教をするのかと思いきや、全然逆なんですよね。まあ、実際のところはこんなものだったろうと思いますけど。

また、ミニヴァー夫人は途中で負傷したドイツ兵が屋敷に入ってきて「あわや」という危機を迎えますし、夫もダンケルクから英国軍人を民間船で撤収させるために(少し前にノーラン監督により映画化されましたね)狩り出されます。中年ながら、それぞれに戦争に関係せざるを得なくなるのです。

戦意高揚映画ではあるけれど、ただただ勇ましさを訴えた映画ではない。犠牲者もそれなりに出ますし、戦争の悲惨さは控え目ながら描写されています。

ワイラー監督はユダヤ系で、ヨーロッパからアメリカに移住したのは第一次世界大戦時ですからまだナチが登場していない時代ですが、露骨に反ユダヤ主義的なナチがドイツの政権をとって英仏と戦争になったときには当然ながら英仏を応援していたでしょうし、英国のチャーチル首相と同じく、アメリカの早期参戦を望んでいたことでしょう。この映画が実際に作られる直前に(日本の真珠湾攻撃により)アメリカも参戦することになるのですが、そういう時局や制作側の都合を除いても、それなりに楽しめる映画になっているところに、ワイラー監督の腕前を見るのが正解なのでしょうね。
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