蛸

2001年宇宙の旅の蛸のレビュー・感想・評価

2001年宇宙の旅(1968年製作の映画)
4.7
言わずと知れたSF映画史上に残る傑作。
映像と音楽の圧倒的迫力だけで感動させられてしまうという、とてつもないパワーを持った作品です。
とにかく美術から何から完成度が高すぎます。1つ1つのシーンのクオリティが半端じゃないからこその長回し(じっくり眺め回されても粗が見つからない)。これでもかと言わんばかりに完成度の高い映像を見せつけられる2時間半でした。

「人類の進化」と「地球外生命体」との接触を扱った、時間的にも空間的にも凄まじくスケールの大きなお話ですが、とにかく説明不足です(クラークのノベライズ版を読まないと最後の方は何が起きているのかわからない)。登場人物のセリフは最小限で、監督の他の映画と比べても映像に語らせる演出が際立っています。
ですがその、物語上の説明不足は想像の余地と化し、人智の及ばないスケールの大きさを作品に付与していると言えるでしょう。
重要なのは、そのスケールの大きさに圧倒されるという体験は同時に恐怖体験でもあるということです(「宇宙」という、人間が生身では生きていくことが出来ない場所に対する恐怖感なんかもキチンと描写されていますし)。把握できないほど巨大なものは恐怖心を引き起こします。
そう考えると、広大無辺な宇宙空間の「黒」やモノリスの「黒」はSFとホラーの祖としてのゴシックをすら想起させます。この映画は一級のSF映画であり一級のホラー映画です。

キューブリックの音楽センスは相変わらずキレキレで、この映画に使われてしまったからこそ『ツァラトゥストラ』や『美しき青きドナウ』には「宇宙」のイメージがこびりついてしまったと言えるでしょう。お馴染みのクラシックを全く異なる文脈に置いて、そこから新しい価値を発現させる手腕は凄腕DJのようですらあります。

映画は静的な演出で淡々と進んでいきます。キューブリックお得意の整然とした左右対称の構図が、人間の矮小さを際立たせ、キューブリック映画に特徴的な冷徹なまなざし=神の視点が映画の主題のスケールと絶妙にマッチしています。
とは言え、研究者たちが月でモノリスと遭遇する場面やボウマン船長のクライマックスの場面では、手ブレの効いたカメラワークが使用されており、それまでに静的な演出が続いていただけに臨場感が際立ちます。
スターゲートのシーンなんかも今見ても視覚的な面白さがあって脚本は説明不足な割にサービス精神旺盛なところもあります。小難しい印象が先行してしまっていますが、わかりやすくすごい映画です。

映画の性質上、できれば劇場で観るべき作品であることは間違いないでしょう。
個人的には映画館は「静寂」演出がこの上なく映える環境だと思うので、その意味でも劇場で観ることがオススメです。
蛸