一人旅

私の殺した男の一人旅のレビュー・感想・評価

私の殺した男(1932年製作の映画)
5.0
エルンスト・ルビッチ監督作。

フランスの劇作家:モーリス・ロスタンの原作戯曲「The man I killed(私の殺した男)」を名匠エルンスト・ルビッチが映像化した骨太な人間ドラマの傑作で、本作は『婚約者の友人』として2016年にフランソワ・オゾン監督がリメイクしたことでも知られています。

上映時間80分弱と比較的短くまとめられた作品ながら、シンプルだが骨太な作劇が“戦争の絶対悪”を浮き彫りにしています。第一次世界大戦終結翌年、1919年のドイツが舞台。とあるフランス人青年が戦時中塹壕で殺してしまったドイツ兵の遺族と婚約者に会いに行くが、大切な息子を殺した張本人が自分である事実を打ち明けられないまま、自分は息子のパリ時代の友人であるという嘘をつき通してしまい…というお話で、基本的なプロットはオゾン版リメイクと同一です。大きな違いとしては、オリジナルである本作はフランス人青年の視点で物語が進んでいく点にあります(オゾン版は婚約者(女性)が主人公でした)。また、オゾン版では青年に会いにフランスまで行く婚約者の姿が描かれていますが、本作の場合は全てドイツの田舎町で物語が完結しています。オリジナルとリメイクで設定上の違いは存在しますが、婚約者がフランス製のドレスに興味を示すシーンや、義理の父親が歓談の席で戦争に対する自論を展開するシーン等、細かな描写までしっかりリメイク版に受け継がれています。

戦争を国家対国家のマクロな角度から描いた作品とは異なり、本作は一人の敵兵を殺害してしまった青年の悔悟と葛藤に焦点を落とし込んだ作劇が特長で、その一貫した“個人性”が観客の理解と同情を呼びます。国家の命令で疑問なく人を殺すという作業を、未来ある無数の若者に強いる戦争の愚かさと悪性を、善良な人間を殺した罪悪感に苛まれ続けるフランス人青年の姿を通じて訴えかけています。戦争により無数の若い命が簡単に失われた時代の中で、たった一つの命の尊さに真摯に向き合ったルビッチ絶頂期の傑作。
一人旅

一人旅