イチロヲ

遠雷のイチロヲのレビュー・感想・評価

遠雷(1981年製作の映画)
3.5
団地のど真ん中でトマト栽培に勤しんでいる青年(永島敏行)が、生涯の伴侶にするべき女性(石田えり)との運命的な出会いを実現させる。立松和平の原作を映像化している、ATG謹製のヒューマン・ドラマ。

本作の舞台は栃木県宇都宮市。主人公はいつも爪のあいだに泥が入っていそうな、肉体労働者の青年。都市開発の波に浸食され、なおかつ結婚すら困難な境遇に喘ぐのだが、そのジタバタ模様こそが人間らしさであるかのように描写される。

当時の日活ロマンポルノの精鋭部隊が製作しているため、成人映画の常連が端役で顔を出す。とりわけ、主人公の友人(ジョニー大倉)と人生苦に陥っている人妻(横山リエ)のシークエンスが、ロマンポルノから切り取ったようになっている。

ビニールハウス作業を実体験している身からすると、高室温・高湿度の気持ち悪さが先行してしまうが、ハウス内部を人間の営みの縮図として捉える手法が斬新。また、ヒューマニズムを提起する流れが絶妙なため、自己省察に繋げていくことができる。
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