垂直落下式サミング

椿三十郎の垂直落下式サミングのレビュー・感想・評価

椿三十郎(2007年製作の映画)
1.9
織田裕二が椿三十郎を演じる黒澤明の時代劇のリメイク。2000年代の真ん中っていう日本のエンターテイメント映画がすごくダメだった時期に結構リスキーなことをやっていたんだな。
織田裕二はミフネの演技をトレースしており、しっかりと自分の色も出しているところに感心するんだけど、ちょっと気を抜くと「まあぁ↑だバカな真似し足りねえのかぁ↑」という地球に生まれてよかったときのトーンになってしまうのが何とも。なまじ素浪人の剣豪として立ち居振舞いが様になっているだけに、彼の言葉尻が上がり世界陸上感が出てしまうと、キターッ!ムロフシーッ!ボルトォーッ!などとゴリラが絶叫する様子が脳裏をよぎり、ププッと吹き出してしまう。
演出も酷くて、僕が一番好きだった若侍たちがコミカルに喜ぶ場面の演出がホントにダメ。オリジナルのカラッとした喜劇とは違う気まずいシュールさを狙ったのはわかるんだけど、全然上手くいっていない。若侍たちがあそこで感情を露にする前に、観客は既にそれまでの話のなかで彼等が同じくらい豊かに表情を動かすのをみちゃってるので、ここで少しくらいおどけたところで何にも面白くないのだ。あれは、それまで張り詰めた顔してた奴等が「やった!やった!」と喜ぶから面白いし、印象に残るのである。
そんな感じなので、オリジナルにそこそこ忠実であればいいやくらいの気持ちでみていたが、まぁ…こりゃあラストの酷さったらない。120分も使ったのにラストですべてをスッ転ばしてしまう。ちゃんと血飛沫を噴かせてたら、そこそこの頑張った時代劇リメイクという評価にもなったのに、この場面をやらないんだったら椿三十郎である意味がないだろうと情けなくなってくる。もう長めのリメイクには期待しない。それだけが僕のAll my treasures!