ジジイ

WANDA/ワンダのジジイのレビュー・感想・評価

WANDA/ワンダ(1970年製作の映画)
4.2
主婦の逃避行を描いた「リバーオブグラス」でデビューしたケリーライカートに多大な影響を与えた1970年のアメリカ映画。素晴らしかった。冒頭、炭鉱の荒涼とした風景の中、とぼとぼと歩くワンダを超ロングショットで捉えた長回しが哀しすぎて参った。髪にはカーラーを巻いたままの姿である。「彼女は閉じ込められていて決してそこから抜け出せない。彼女のような人は何百万人もいる」というバーバラローデンの言葉どおり、本作はワンダというヒロインを決して美化して描くことをしない。同時にどこまでも受け身で他人事のような彼女の表情が、もはや「悲劇のヒロイン」であることすら拒絶しているように思えた。






以下ネタバレです。





だが、そこかしこに笑えるシーンもある。例えばワンダがデニスに出会う場面。デニスがビールを注ぐカットに、縛られ床に寝かされた店主が偶然映り込み、観客は初めて何が起きているか理解する。カウンターの外にいるワンダがどこまで状況を把握しているのか、それもほったらかしだ。また銀行強盗の手順をワンダに説明する際、「できない」と泣き出すワンダの大きなお腹をグーで殴る(時間経過が不明で一瞬本当に妊娠したのかと思った)件にはすごすぎて笑った。言うまでもなく1967年の「俺たちに明日はない」を意識した作品だが、その美化されたアウトローとしての描き方を真っ向から拒絶していて面白い。人々の願望を具現化したようなヒーロー像を作り上げるのも痛快だが、名もなき市井の人々を丁寧に語る作品にも強く惹かれるのである。
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