タクマ

大病人のタクマのレビュー・感想・評価

大病人(1993年製作の映画)
4.3
映画監督でもあり俳優でもある男は日々女にうつつをぬかして妻を蔑ろにしていたが自身がガンで余命が少ない事を知り最初は恐怖に落ちるが…
生き様と死に際、自らの命の期限を受け入れる事で己の人生を振り返り訪れる安らかな最後。介護ヘルパーとして働いてきて長いですが最初は主人公にガンの事実を隠そうとした津川雅彦さんが演じるお医者さんの姿を見て以前勤めていた施設の上司が昔はガンと言えば隠そうとする病気だったんだって話してたのを思い出した。今の時代は隠すなんて事殆どありませんし色んなお薬が出来て生存率も上がったけどこの時代はそんな事なかったんですよね。
本作で三國連太郎さんが演じる主人公。浮気はするわ自己中だわスケベをやり倒すわでまあとんでもない爺なんですが見ていて愛嬌が湧いてきて終いには可愛らしいとまで感じちゃうから不思議「笑」そんなキャラクターだからか自分の余命を知り最初は泣いたりわめいたりするがやがて悟りの境地に入り自分の最後を幸福に飾るにはどうするべきかを考える姿にはぐっときた。
終盤の津川さんと三国さんのやり取り、三国さんが津川さんに「お前の親が俺の様になったらお前は延命治療を望むか?」って聞く場面。これもまた介護職という仕事をしている人間の経験上の話になってしまうけど自分の親がこの主人公と同じ様になったら自分だったら延命治療は望まないし自分の場合も同じ決断になるかな。
勿論、生きれるのに人生に絶望して自ら死を選ぶとか生きたいのにそんな所まで追い込まれるとかは論外だしハッキリ言ってクソだと思うけどそうじゃなくて自分の命の時間が限られてる状況なら最後に自分が何をやりたいかとかどんな風に良い人生だったと思いながら死ねるかを考えるなと。
尊厳死っていうとどうしても話が重くなりがちな部分をそこまで重くせずに笑いと涙を交えながらラストは感動まで起こす伊丹十三監督の手腕は凄いですし主人公の臨死体験場面や般若心経のオーケストラ等自らの持てる死生観を劇中劇とメッセージを組み合わせて表現してくる監督の表現力にはただただ屈服。自分の人生観を揺るがされるようなこんな魂がこもった映画に出会いたくて自分は映画を見続けている。自分が人生最後に見る光の輝きは何色だろうか。
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