てつこてつ

ナイル殺人事件のてつこてつのレビュー・感想・評価

ナイル殺人事件(1978年製作の映画)
5.0
アガサ・クリスティのミステリー小説は、ほぼ全作読破した。

その中でも、一番好きなのが「ナイルに死す」。その映画化と聞けば、見ないわけにはいかないし、ましてや、監督が「タワーリング・インフェルノ」、まだNYの世界貿易センターがあった頃の、ジェシカ・ラングを一躍スターダムにのし上げた「キングコング」を手掛けたジョン・ギラーミンなので、それまでアクション映画を得意としていた彼が、このクリスティの大作をどのように料理したのか好奇心大。

なるほど、多少のキャラクターの変更はあるものの、見事に、原作の'ミステリーロマン'の要素をきちんと描ききれていた。また、ミア・ファロー、当時、007でボンドガールを務め話題となったロイス・チャイルズ、後のシリーズでミス・マープル役を演じるアンジェラ・ランズベリーといった、原作のキャラクターのイメージにぴったりのキャスティングに加え、アブシンベル神殿、クフ王のピラミッド、実際に存在する名門オールド・カタラクトホテル等での屋外シーンは現地オールロケ敢行した事で、中心となるフーダニット(誰が犯人か?)のストーリーに加え、アクション要素やエキゾチックな雰囲気も満点で、とにかくスケールがでかい。重要な登場キャラの一人である、ミア・ファロー演じるジャッキーが、アブシンベル神殿の巨大遺跡像の上で叫ぶシーンなんて、まさに圧巻!

また、前作の「オリエント急行殺人事件」に続き、これぞ、オールスター集結と呼ぶに相応しい豪華な俳優陣の競演も見もの。往年の名女優ベティ・デイヴィス、デビッド・ニーヴン、ジョージ・ケネディ、フランス映画界の大スターであり歌手のジェーン・バーキン(彼女の名前にあやかりエルメスのバーキンバッグが誕生したのは、あまりにも有名な話)、後に「ハリー・ポッター」シリーズや「ダウントン・アビー」でも有名となるイギリスが誇る名女優マギー・スミス、「ロミオとジュリエット」でハーフならではのエキゾチックかつ透けるような美しさで名を上げたオリビア・ハッセー・・。

オールド・カタラクトホテルの朝食サロンを借り切って撮影されたタンゴの名曲「ジェラシ-」を彼らが踊るシーンには鳥肌が立った。

この後も量産され続けたクリスティシリーズだが、本当に豪華キャストと呼べる銀幕の大スターを揃える事が出来たのは、この作品と、前作でアルバート・フィニーがポワロ役を演じた「オリエント急行殺人」、出来はイマイチだったが、エリザベス・テイラー、ロック・ハドソン、キム・ノヴァク、トニー・カーチスらが揃った、「鏡は横にひび割れて」の映画化「クリスタル殺人事件」くらい。

特に90年代以降、ジョージ・クルーニーを筆頭に、ブラッド・ピットなど、ハリウッド映画界を当時牽引していたスターたちが、俳優のプライバシー権を大々的に主張し始めてから、自分の中では、「映画スターも、莫大な収入だけは得る一般人」として認識するようになってしまい、何だか、本当の「銀幕のスター」という存在が、もう映画界からは消えてしまったような気がして、一抹の寂しさを感じる。

「オーシャンズ11」が大スター集結と言われても、自分には、何だか違和感しか感じない。まあ、単純に世代の違いと切り捨てられたらそれまでだけど・・。

リメイク版「オリエント急行」を見た時も、オリジナル版が、あまりにも完璧であった為、ケネス・ブラナーのポアロ以外、何だか小粒感が否めなかったし、何と言っても、列車のVFXでの描写がチープ過ぎた。オリジナル版では、確か、実際に走っていた当時の蒸気機関車をリアルに作り上げていたと記憶している。

このコロナ禍において公開が延びてしまったリ今作メイク版も、ガル・ガドット、アーミン・ハマーとか、何だか物足りない。せめて、ナイル川を行く豪華クルーズ船内のセット以外は、エジプトでのオールロケを敢行していてほしいが、現在の政治的状況を考えると、イスラム圏にハリウッドの役者たちが全員乗り込んでロケをするリスクを負ったとは、到底思えない。

まあ、俳優陣のギャラが高騰している反面、VFXの技術が大幅に進化した事で、そう言ったリアルさの追求の部分の軽視については妥協するしかないんだろうな。あまり期待しないで鑑賞するしかないか。
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