SANKOU

赤西蠣太のSANKOUのネタバレレビュー・内容・結末

赤西蠣太(1936年製作の映画)
4.4

このレビューはネタバレを含みます

フィルムの劣化のためところどころ台詞が聞き取れなかったり、伊達騒動を知っていることが前提で作られている作品なのでストーリーを理解できない部分もあったが、シーンのひとつひとつはとても印象に残る名作だった。
派手な殺陣のシーンはほとんどないのだが、カメラワークに工夫がなされていて、とても躍動感があった。音楽を使ったコミカルな特殊効果は後の黒澤明作品にも大きな影響を与えているそうだ。
片岡知恵蔵が飄々とした赤西蠣太と、全く正反対な役柄の原田甲斐の二役を演じているのには驚かされた。
伊達兵部の屋敷に仕える赤西蠣太は、どこか人に見下されるような滑稽さがあるが、実は白石の国元から伊達兵部、原田甲斐の密議を暴くために遣わされたスパイだった。
同じく青鮫鱒次郎と素性を偽って原田家に入り込んでいる今村半之丞と親交を深めながら赤西は与えられた任務を遂行しようとする。
蠣だとか鮫だとか鱒だとか、やたらと魚の名前ばかり出てくるのが面白い。後には安甲という按摩まで登場する。
安甲が腹を痛めた赤西を診察するシーンは印象的だ。恐らく赤西の病状は腸捻転であり、このままでは命が危ない。
赤西は安甲に大切な書状のありかを教え、もし自分が死んだらその書状を今村に渡してくれるように頼む。
そして何と彼は自分で腹を捌いて腸をいじくり回して元に戻すという荒療治をやってしまう。もう何とも無茶苦茶な話だ。
安甲は今村の前で酒に酔った勢いで、ペラペラと赤西が自分に託した書状のことを喋ってしまうが、それが彼にとって命取りで、こんなに口の軽い奴は生かしておけないと今村に斬り殺されてしまう。
基本的にコミカルな作品だが、無慈悲な場面もしっかりと描かれている。
赤西が伊達の上屋敷に刺客が放たれたことに気づき、それを至急松前鉄之助に書状で知らせるシーンも印象的だ。
松前は何度も鱶平(またしても魚の名前がつく)に酒を飲ませては門番のところに行かせ、刺客が入り込んでいないかを探らすのだが、緊迫した状況なのにこのやり取りが何とも間の抜けていて面白い。
結果的に刺客は松前の手によって捕らえられる。
そろそろ白石の国元に戻らなければいけない赤西だが、屋敷を出る口実が見つからない。
そこで今村は赤西に商家から屋敷に召されたさざ波という綺麗な娘に恋文を書くことを提案する。絶対に恋が実ることはないから、振られた赤西は屋敷に居づらくなり去らねばならなくなる。これなら怪しむ者は誰もいないと。
苦労して恋文を認めた赤西だが、さざ波からの返事は一向に来ない。さらにもう一通恋文を認めた赤西は、それをわざと人目につく廊下に落としておく。
これを拾って読んだ侍は、きっと赤西を馬鹿にして囃し立てるだろう。
居づらくなった赤西は屋敷を去ることになる。
しかし彼の計算はまたしても外れ、手紙は屋敷の奥女中の手に渡ってしまうのだ。
一方さざ波は漸く手紙の返事を赤西に渡すことが出来た。
実はさざ波は赤西のことを想っており、この度赤西から恋文を貰ったことをとても嬉しく思っていた。
さざ波からの返事の手紙を読む赤西だが、さざ波の気持ちが盛り上がっていくほどに、複雑な表情を見せる赤西の姿が滑稽だ。
さざ波の想いも捨てがたいが、彼は任務を全うするために手紙を燃やしてしまう。
赤西は奥女中に呼ばれ手紙のことで注意を受ける。これがもし屋敷中に知れ渡ってしまったら、侍としての命を奪われたも同然だと。
赤西は奥女中から注意を受けたことで屋敷を去る口実を設けることが出来た。
赤西の恋文は屋敷中に知れ渡ることになり、面白おかしく侍たちの間に伝わっていく。
しかし原田甲斐だけはそれを不審に感じていた。さざ波を問い詰めると、彼女は赤西に恋心を抱いていることが分かる。
これでは赤西が屋敷を去る謂れはない。
原田はすぐに赤西に対して追手をかける。
茶屋で休んでいる赤西の元へ屈強な追手たちが乗り込んでくる。
赤西は彼らにばれないようにそっと引き返し、茶屋を急いで出ていく。この演出がとてもコミカルで面白かった。
そして赤西は僧侶の集団に紛れて追手から逃げ切り、無事に任務を果たす。
その後の原田甲斐が伊達安芸を斬殺し、自らも刃に倒れるシーンはかなり唐突だが、これが伊達騒動の終焉を表しているとのことだ。
赤西役では殺陣の見せ場のなかった片岡知恵蔵が、ここでは思う存分大見得を切っている。
やがてお家騒動が一段落すると、赤西は実家に戻っていたさざ波に会いに行く。
赤西の来訪を聞き、タンスの着物を全部引っ張り出しておめかしするさざ波が可愛らしい。
そしてゆっくりしている暇はないと言いながら、いつまでもさざ波の側を離れない赤西の姿が微笑ましかった。
SANKOU

SANKOU