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マトリックス(1999年製作の映画)
4.2
 男は昼と夜とで別の顔を持ち、パソコンの画面の前で卒倒するように眠る。その顔は青白く生気のない様子で、垂れ流される電磁波の中で男はいつ果てるとも知れない夢の中をまどろみ続けるのだけど、その時急にコンピューター上には奇妙な警告が自動筆記される。トーマス・アンダーソン(キアヌ・リーブス)は、大手ソフトウェア会社のメタ・コーテックスに勤める優秀なプログラマーなのだが、夜はあらゆるコンピュータ犯罪を起こすハッキングに夢中になり、なかなか昼間の現実世界に戻って来れない。彼は仮想現実の中では「ネオ」というもう一つの顔を持つのだ。パソコンの画面に突如書き起こされた「起きろ、ネオ(Wake up, Neo.)」の言葉はあまりにも挑発的で、彼自身の精神の目覚めにもなり得る意識改革のプロセスとなる。彼の前に現れたモーフィアス(ローレンス・フィッシュバーン)という男は、驚くべきことに自分が生きていると思っている今この世界は、コンピューターの創造した仮想現実の世界で、まぼろしの世界で夢を見ているだけだとネオに告げるのだ。

 赤い錠剤を口にしたネオの精神の目覚めの旅はこうして始まる。疑いようもない世界の中で、己の生き方に何の疑問も持たずに生きて来たはずのネオの葛藤は真に根深いのだが、モーフィアスは彼のメンターとなりながら、時に彼自身の肉体を過酷にいじめ倒すことで、意識を高め、精神の高みへとネオを導こうとするのだ。選ばれし者の精神の高みへの旅は多くの仲間に囲まれ一見、非常に幸福な旅にも見えるが、そこには常にエージェント・スミス(ヒューゴ・ウィーヴィング)の魔の手がダイレクトに迫る。そして間隙を縫うようにコンピューター側の圧力に屈する者も現れるのだ。彼はさながらユダのように振る舞うが、それでもハッカーたちはコンピューターの猛威から必死に逃げようと更なる抵抗を試みる。男女のルックスの境目はほぼなく、喜怒哀楽を映し込む瞳の表情はサングラスに隠れて見えない。極めつけは銃口から発射された弾丸をエビぞりで避けるスロー・モーションの斬新さだろう。バレットタイムという当時は画期的な発明は高速で移動するばかりのアクションを、まるでスロー・モーションのような視覚効果で度肝を抜いてみせる。壮大なエンターテイメントでありながら、今作はネオがまどろみの中から真に目覚めるまでを描く哲学的示唆に富んだ1本となる。
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