masayaan

渚のシンドバッドのmasayaanのレビュー・感想・評価

渚のシンドバッド(1995年製作の映画)
4.6
「この女の子、いい演技するなあ。でも、最近の映画じゃ見ない顔だなあ。ぽっと出で終わってしもうたんかなあ。芸能界は惜しい人材を失ったなあ、勿体ないなあ。たまたまのハマり役やったんかなあ」と思ってエンドロールのクレジットをぼーっと眺めてたら、「浜崎あゆみ」って・・・。なんと、そういうことですか。この人が「歌も歌える女優」で残っていてくれたら、その後の橋口映画にはまた少し違ったポップさがあったのかもしれない。

≪あゆみが主演する映画を撮りたいと思ったのが『ハッシュ!』のきっかけ。ゲイのカップルに育てられた17歳の女の子をあゆみに演じてもらって、普通の家庭で育った男の子とのラブストーリーみたいなものを作れたら良いなと考えていました。まぁ、彼女がいつの間にか歌手になってしまったのであえなく断念しましたが(笑)≫(監督インタビューより)

それめっちゃ見たかったやつでは・・・。なんて言っても始まらない。これはどこからどう見ても、ジャンルを問わず、デビュー間もないころの作家やアーティストだけに生み出すことができる類の作品だなーと。その後の橋口映画が、「1が重なり合うことで2なり3になることを忘れてしまった孤独な大人たち」の映画だとすれば、ここにあるのは、「1をどうやって重ねたらいいのかを知らない、悪戯に傷つけあう子供たち」の映画です。

いやあ、まだ言葉にできないものと言葉にしたくないものが混ざり合ってるのですが、劇中には音楽も台詞も必要以上には入ってなくて。当時17歳の浜崎あゆみら子供たちの演技に賭けた、博奕のような橋口監督の心意気がとても好きだ。そして、恋人でも友だちでもない曖昧な二人組として、川沿いの夜道をゆったりと歩く少年と少女の姿は涙が邪魔してとてもじゃないが直視できなかった。DQNな生徒の描写もお見事。同性愛者の、というよりはもっと普遍的な主題かなと。名作。
masayaan

masayaan