Yoshishun

銀河鉄道999のYoshishunのレビュー・感想・評価

銀河鉄道999(1979年製作の映画)
3.8
“展開の速さは新幹線並”

松本零士による原作のテレビアニメ放送中に製作された劇場版第1作。当時のテレビアニメ劇場版のような総集編の作りではなく、劇場版として完結するよう再構成された記念碑的作品といわれている。原作のアンドロメダ編の名場面をピックアップし、120分の尺で繋ぎ合わせたような内容で、原作が連載中ながらもメーテルの正体や結末を先行公開したことでも話題となった。

この作品の知識としては鉄郎とメーテル、そしてはねトびの1コーナー位しかないが、意外にも少年が少しずつ大人へと成長していく物語の中に、人が人たる故の幸福や永遠に生きる、終わりを知らない生命論と深いテーマが描かれていることに驚きだ。特にメーテルは車掌の愛人というイメージしかなかった自分にとって、ミステリアスな魅力溢れるメーテル自身が物語の根幹を揺るがす重要人物だったことに驚いた。

有名過ぎるエンディング手前の、メーテルの別れ際の一言こそ、当時の世の男性を虜にした要因でもあるし、少年の心にもブスリと刺してくるメーテルの愛というものは、鉄郎との出会いによって築き上げられていったのだろう。機械と人間という映画の中でも特に敵対関係として描かれてきた風潮がある中で、こうした生命論を描く松本零士イズムには脱帽するしかない。

原作やテレビアニメの良いとこの寄せ集めのようにも見えるため、各惑星での出来事や鉄郎に立ちはだかる苦難もあっさり乗り越えていくのでややダイジェスト感は否めない。無駄を一切排除したとも取れるが、メーテルと各惑星の重要人物との関係性が希薄だったりと、逆に削りすぎてしまったようにも思う。機械伯爵への復讐というクライマックスが終わった時点で40分も尺を残していたものの、メーテルの正体やハーロックとエメラルダスの活躍と盛り込みすぎた結果、肝心のメーテルが脇に追いやられてしまったように思う。タイトルは銀河鉄道だが、展開の速さはまさに銀河超特急または新幹線といっていい。

テレビアニメ版や原作の内容を踏まえたうえで臨むと、それらとの差異や惑星メーテルの消滅シーンといったセル作画ならではの映像体験に興奮しっぱなしかもしれないが、いきなり本作だと原作のダイジェストのイメージが強く、気付いたら復讐を遂げているなど呆気に取られてしまう。ある程度原作の知識がある方向けの作品なのかもしれない。
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