チッコーネ

パイラン/ラブレター パイランよりのチッコーネのレビュー・感想・評価

3.7
「あれイヤ、これダメ」と注文つけ放題の現代恋愛事情においては、かように特殊なシチュエーションでなければ純愛が成立しないことを物語るような一本。
タフな状況下で『恋に恋する恋』にすがらねば生きられぬ女の健気さ、愚かさ、そして哀しさが、映画ならではの力で美しく純化されている。
雑然としたソウルと、空気の澄んだ地方都市に二分化したロケ撮影も非常に明快だ。

チェ・ミンシクは本作でも「哀愁の三枚目」を貫き通す。
『シュリ』と『オールドボーイ』の間に撮られた作品で「いったん減量しても、維持は厳しいのかなぁ…」という体型。
精神年齢が低く、「セッキャ、セッキャ」を連発する姿は確信犯的に惨めだが、キャラクターの覚醒がはじまる特急乗車場面で洗練された所作を一点集中、効果的に発揮しているのにも注目したい。
近年はメロドラマへの出演に飢えているという彼にとって本作は大切な一本らしい。
それも納得の優れた出来栄え…、何よりハードボイルドなラストが良い。
甘い夢を遮断し、文字通り現実へ「引き摺り戻す」ことで物語がピリリと引き締められていた。