かじドゥンドゥン

私を撮ってのかじドゥンドゥンのレビュー・感想・評価

私を撮って(2008年製作の映画)
4.0
演劇界における非正規雇用者の実態を追ったドキュメンタリー映画を制作しようと、二人の男が友人であり俳優のジョヴァンニと妻ルチアの家庭に密着取材し、カメラを回し続けている。ところが、演劇界でくすぶり続けていたジョヴァンニが苛立ちを爆発させ、妻と幼い息子を捨てて家を出ると言い始める。

思わぬ展開に戸惑う製作者。しかし、すでに借金までして着手しているだけに、いまさら後には引けないと、夫・妻の両者をマンツーマンで追跡し、撮影を続行する。

夫婦が居合わせる場面を一つの光景として撮影すると、互いにいちおうはつじつまがあうような言動をとるのだけれど、夫は夫、妻は妻で追跡してみると、言ってることとやってることとがバラバラで、恋人は作る、子供はひとに押しつける、元カレと会う、嘘はつく・・・やりたい放題。
さらに、夫婦の周囲の人間たちも、彼らを心配しているように振舞っていながら、内心では呆れ、おもしろがっているし、一丁前に忠告していながら、自分の家庭は欺瞞だらけ。

極めつけはカメラマン二人。自分たちの取材に意味があると信じてみたり、やっぱり無意味だと投げ出してみたり。ついには妻ルチアの方を追っていたカメラマンのエロスが、ルチアへの愛を打ち明けて、彼女とできてしまう。

つじつまがあった美しい人間ドラマに整形しない真のドキュメンタリー映像が、どれだけ人間の浅薄さを暴き出すのか、皮肉タップリに描いた作品と言える。その醜悪なドラマ、否、「ドラマ」とさえ言えない都合主義に、制作陣も巻き込まれているという点がおもしろい。