Iri17

サクリファイスのIri17のレビュー・感想・評価

サクリファイス(1986年製作の映画)
4.7
タルコフスキーからの最後のメッセージ。

ロシアの巨匠アンドレイ・タルコフスキーの遺作となった作品。核戦争前夜を舞台に神を信じないニヒリストの男が、形而上的な存在と向き合う。

タルコフスキーは冷戦による黙示録の到来を意識しながらこの作品を作った。彼は「人間同士が理解しあうためには犠牲を払う必要がある」と述べている。
この作品は他人のために、どれほど自分を犠牲に出来るかという地球規模での相互扶助についての映画なのだ。どんな小さなコミュニティでも共存のためには自分を犠牲にすることが求められる。構成員全員が自己中心的に行動していてはコミュニティは成り立たない。しかし、国際社会になるとその常識は見えにくくなり、それぞれがお互いの国益とエゴのために行動する。相手の為にという自己犠牲の精神がなければ、平和など訪れるはずはない。ソ連当局に睨まれ、思うような作品作りができなかったタルコフスキーには身にしみて実感していただろう。

またこの作品はイングマール・ベルイマンの『ファニーとアレクサンデル』から強い影響を受けており、他のタルコフスキー作品とは一線を画す。アレクサンデル役の俳優は『ファニーとアレクサンデル』にも出演しているし、家の風景は酷似している。そして撮影監督はベルイマンの盟友であり、『ファニーとアレクサンデル』の撮影監督を務めたスヴェン・ニクヴィストだ。
ただ空中浮遊や火と水の象徴性などは今作でも健在で、ベルイマンに引っ張られ過ぎずにしっかりとタルコフスキー映画である部分が素晴らしい。

数多の作品に影響を与えたラストシーンや哲学的なテーマなど、最期までこのような作品を撮り続けたタルコフスキーに敬意を表したい。
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