帰りの機内にて。
僕の”究極のピアノ曲”プレイリスト入りした数少ないクラシック曲のひとつ、ドビュッシーの「Clare De Lune / 月の光」がなかなか効いてた。
70年前、フランス統治下のベトナム。青緑がかった色彩と庭の外から覗き見しているようなカメラワーク。時折はさまれる接写と食事の映像も美しい。
サイゴンの商家に住み込みの使用人として奉公にだされたムイ。彼女の好奇心のきらめき、知性の喜び。クェンさんへの淡い恋心も、知性の萌芽として描かれていて気がする。
この処女作でカンヌ新人監督賞を受賞したユン監督は10代でフランスに移住しているそうで、ノスタルジーとエキゾチシズムが共存した瑞々しくも耽美的な映像で、青いパパイヤが熟れていく十数年を描いている。
整った生活、思いやり深い言葉、整った髪。ベトナム女性の品格を感じる。かつて喪った娘をムイに重ねている奥様がムイに向ける視線、慈しむような眼差しから寂しげな表情への変化が素晴らしかった。
三男の悪戯テーマソング、オナラ、蟻への虐待、籠の鈴虫、パパイヤの千切りかた。庭の外から呼ぶおじいさん、旦那さまの家出。足を撫でる手。虫や蛙たちとの共生。全編を通じて感じる湿度。ときおり無駄にサスペンスちっくになる音効以外は、ほんとうに美しい映画でした。
この郷愁感はどこから?